104,498 steps in Paris #1

この年末で32年間勤めた会社との雇用契約(定年延長も含め)が切れることから、思い切って休みを取ってパリに飛んだ。

歩いた歩数は6日間で104,498歩。美術館でゆっくり歩いたり、順番待ちでのろのろ歩いたことを考慮して1歩の歩幅平均を50cmとしても実に50km以上を歩いたことになる。

その50km、どこをどう巡ってきたのかを記憶が残っているうちに記しておくことにしよう。

ということで例によって紙芝居の始まり、始まり。

▪️みる

今回はいつものように目的地を欲張ることなくパリ1箇所で6日間(6泊7日)を過ごしてきた。

とはいえ広いパリのこと、訪れることができたのは宿を取った1区を中心とするセーヌ両岸の限られたエリアだが、短い時間にそれなりの見聞を広めることが出来たのは幸いであった。

その経験を「みる・食べる・買う」の3項目で記録しておきたい。

まずは「みる」。

やはり芸術の都パリ、美術館巡りを主体に記録を残す。

往路はウクライナ紛争の影響に加え、カムチャッカ半島の火山噴火の影響もあってさらに南回りのルーティングとなり、出発が1時間半遅れた上飛行時間も14時間を超えたため、シャルル・ドゴールに着いた時はすでに5時を回り、辺りは真っ暗。
当日は金曜でルーブルが21:45まで開いていると聞いていたので17:30の予約をとっていたが、まるで間に合わない。
それでも19時頃ホテルにチェックインしたのち、めげずにルーブルに向かう。

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この日は「ルーブルに行ったらこれを見ろ」アイテムの「モナリザ」を中心に「ドノン翼」2階(フランス式では1階)を中心にまわることにした。

時間が遅いこともあって入場にもさほど時間がかからず、館内もスムースにまわることが出来た。

と言っても「モナリザ」は別格で相応の人集りであったが、おそらく通常の時間帯であればもっと混んでいるのだろう。

それにしてもルーブルは世界中から「お上りさん」(オイラも含めて)が集うところのようで、モナリザをバックに自撮りする輩の多いのに思わず苦笑する。

ラ・ベル・フェロニエール、岩窟の聖母、聖アンナと聖母子など他のダ・ヴィンチ作品の前はワイド・オープン、ゆっくり鑑賞することが出来た。

ラファエルの「聖母子と幼き洗礼者ヨハネ」の前も人影まばら。幸運を喜んだ。

ドラクロワ、ダヴィッドらの作品やサモトラケのニケもたっぷり観たところで閉館時間となった。

印象に残ったのはボッティチェッリの「自由7学者へと導かれる若者」「若い婦人に贈り物をするヴィーナスと三美神」のフレスコ画かな。

ルネサンスらしい、そしてボッティチェッリらしい明るくふくよかで伸び伸びとした画風が幸せな気持ちにさせてくれる。

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次にルーブルに行ったのは4日後。今度はリシュリュー翼3階(仏式で2階)の14~19世紀フランス絵画・フランドル・ドイツ・オランダ絵画を中心に回る。

あいにくフェルメールの「レースを編む女」は貸し出されて不在であったが、「天文学者」をみることが出来た。

その他ジャン・クルーエの「フランシス1世」やアングルの「トルコ風呂」「ヴァルパンソンの浴女」、作者不詳「ガブリエル・デストレとその姉妹」、そしてミロのヴィーナス」などを鑑賞した。

モナリザで混雑するドノン翼と比べてリシュリュー翼は人でも少なくゆったりみることができるので楽ちんのはずだが、ルーブルの巨大さと展示室のロケーションの分かりにくさでクタクタだ。

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5日目に行ったピカソ美術館はマレ地区の閑静な街区にあり、サレ(塩)館と呼ばれる17世紀の建物を改装した姿が美しく興味深い。

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ピカソの作品はもとより、彼の身の回りのもの、華やかな女性遍歴の軌跡や愛車アウトビアンキに至るまで、彼の人間性を掘り下げた展示となっている。

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回り回廊

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アウトビアンキ


この空間作りの感覚(改装監修はジャン・フランソワ・ボダン)ときたら、まったく見事でカッコ良くて、到底真似のできぬものだと感心させられる。

6日目に行ったオランジュリー美術館にも溜息が出た。

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ご存知二つの楕円形の大きな部屋からなる「睡蓮の間」だが、16:30予約の人たちは大勢いたのに1階のモジリアーニ展に流れたのか、僕たちが足を踏み入れた最初の睡蓮の間には他に人がいないヴァージン・エア状態。

信じられない幸運を神に感謝しゆっくりと深呼吸しながら360°の眺望を楽しんだ。

その後人が入ってきたところが下の写真だが、せいぜいこの程度。

企画展ではモジリアーニで、彼の絵画や彫刻も望外に楽しむことが出来た。

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目玉のある作品って珍しくありませんか?


モネの睡蓮のシリーズって、大きくて実体のないぼんやりとした色彩の絵画という勘違いをしていたが、あの自然光を取り入れた展示室で360°のパノラマを体感し、初めて彼の意図するものに触れることが出来た気がした。

美術館の掉尾はオルセー。

ここは4年前(だったかな)南仏の帰りに寄った時も建物と展示物の素晴らしさに感銘を受けたのだが、今回も我々の期待を裏切らぬ体験を得ることが出来た。

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旧駅舎の時計台裏から見るモンマルトルの丘

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カイユボットの「床削りの人々」


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ルドンの3枚のパネル。パトロンのドメシー男爵の城のダイニングルームを飾るパネルの一部。


カイユボットは何か気になる作風の画家で、シカゴ美術館にある大作「パリの通りー雨」が強く印象に刻まれているのだが、彼の初期の作品であるこの「床削りの人々」の写実的でいて光を巧みに捉えた表現も心に残るもので、今回の再訪で再会を楽しみにしたいた作品の一つでもあった。


ルドンの装飾画の連作は大きな空間の四方を飾る形で展示され、その中に立つとその淡く幻想的な色合いの草木画が、平面的なようでいてくらくらと立体的に迫ってくる。まるでドビュッシーの器楽作品のような味わいが感じられるのだ。

印象派の名画を揃える常設展も見事だが、グランドフロアで開催されていたゴッホ特別展も素晴らしい作品に出会うことが出来た。

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自死の直前か最晩年に描かれたとされる田園3部作、特に黒い鳥が舞う絵と雲行きの怪しい空が広がる絵は、その展示室に入った途端に脳に飛び込んできて釘付けにされるほど強力な磁力を持つものだった。

写真では良く再現できないが、この青、黄色、緑という色が画面の中でせめぎ合う力、発散するエネルギーが尋常ではない。

ゴッホ特別展のおかげで人がそちらに流れていたようで常設の印象派の名作たちともほぼ独り占め状態に近い形で対面することが出来、二重の幸せであった。

「みる」ては美術館以外にベルサイユ宮殿、サント・シャペル、ノートルダム寺院などの建造物もふれるはずだったが、今日は力及ばずここまでだ。

「食べる」「買う」とともに、またいずれ。

# by windypapa | 2023-11-11 21:39 | 日々是好日 | Comments(0)

9月も半ばというのにうだるような暑さの中、ジャケットを片手に上野に向かう。

そう、今日はローマ歌劇場のいわゆる「引越し公演」である「椿姫」を東京文化会館で観劇するのだ。

架線事故で四谷で止まった中央線から総武線に乗り替え、開場時刻に上野に到着、スタバで冷たいものを喉に入れて一息つく。

ひと心地ついた後に会場に入ると、外の喧騒と熱気とは裏腹にちょいとすまし顔で着飾った紳士淑女が集まって、あるものはプログラムを求めあるものは待ち合わせの相手を探し、あるものは記念オブジェの前で写真を撮ったりと様々な行動をとりながら、その顔には明らかな高揚感が浮かんでいる。

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もちろん半袖ポロのカジュアル組も見られるが、ダークカラーの礼服で決めた連中も結構目立っている。

う~む、ユニクロのベージュのイージーパンツとギンガムチェックの半袖シャツの上にzaraのベージュのジャケットを着た我が出で立ちは、ちょっとみすぼらしいかもしれない、いやなんの、中身が肝心じゃ、とわけのわからない言い訳をしながら席に向かい既に着席していた長男と合流する。

座席は1階席R7の11で舞台に向かって右側、斜めに切った座席となるが、視界は良好、舞台を間近で見ることができる。

変な先入観を持つまいと事前学習は全くせずにやってきたが、さすがに指揮者ミケーレ・マリオッティとヴィオレッタ役リセット・オロペサ、アルフレード役フランチェスコ・メーリくらいは予習してくればよかったかな、などと思うがもう遅い。

首をめぐらすと5階席までずずずいーっと満席だ。

チケット単価の平均がウン万円として2,303席を乗じると億は超えてくるゾ、などと下品な想像をめぐらすうちに照明が落ち場内の喧騒が収まりマリオッティと思しき人の靴音がオーケストラ・ピットに響いて拍手が沸き起こる。

マリオッティその人が首から上だけを客席に晒して会釈をし拍手に包まれたのち静寂に包まれ、第1部の繊細で美しい前奏曲が弦楽器群によって始まり、同時に幕が徐々に開いて舞台中央の白い階段と黒っぽいイブニングドレス姿のヴィオレッタが現れる。

大広間の天井からは青色の灯がともる大きなシャンデリアがゆっくりと三つ垂れ下がり、白い階段以外はソファとテーブル、そしてその上の燭台、舞台奥のいくつかのドアが見えるのみ、暗く抑えた照明のもと、ヴィオレッタが柔らかなスポットライトが包まれる。

このヴィオレッタが遠目にも素晴らしく美しい。彼女が蠟燭に火をひとつずつ点す仕草に、もう観客はすっかり目を奪われてしまう。

そして軽妙な楽曲が始まるとともに奥のいくつかのドアから夜会服姿の男女の一団が入場し、シャンデリアの灯は黄色に変わり、享楽の一夜が始まる・・・

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この集団の夜会シーン、ヴァレンティノ・ガラヴァーニによる衣装がスタイリッシュでスノッブであり、パリの上流階級の夜会、そしてそれが高級娼婦のヴィオレッタがホステスを勤めるものであることを見事に描き出している。

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乾杯の歌のエンディング

全体を通して照明の使い方、舞台装置の仕立て、コスチューム、振り付け、などすべてに演出のソフィア・コッポラの眼が行き渡り、ある種「映画的な」演出が凝らされてそれが「大時代的な見え見えのメロドラマ」に幅と厚みを加えて現代の鑑賞に堪えるオペラに昇華させた、といえるかもしれない。

第一幕のシャンデリアの照明の色の変化、階段による上下方向の空間の拡張、にとどまらず、例えば第2幕第1場のヴィオレッタ邸のシーンは大きな窓のテラスハウスの舞台設定で、ガラス越しに見える景色ー雲や太陽の光ーが時間の経過とともに変化していく様が精妙に描かれ、またドアを開けて召使が入ってくると室内に入っていた花びらが風で舞い上がる、など細かい仕掛けで観衆を楽しませたり、第3幕の死を迎える部屋は青を基調にーまるでフェルメールの絵画のような落ち着いた空間を作り出し、白い夜着を纏うヴィオレッタの姿にその運命を明示させるーなどがその一例である。

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第2幕2場でヴィオレッタに札束を投げつけたアルフレード

第2幕第2場の絵を第1幕のそれと比べると女性の夜会服が黒に代わり、赤いドレスのヴィオレッタの存在感を引き立たせていること、またアルフレードと決定的な別離を迎えるという厳しい場面となることを色感的に指し示している。

衣装面、演出面の優れた点を気付くままに挙げてきたが、それらを引き立たせたのは何といってもヴィオレッタを演ずるリセット・オロペサの歌唱力、表現力である。

素人の僕がそれを表現することは憚られるが、人間の体がこうまで素晴らしい楽器として機能するということを見せつけられた。

リッカルド・ムーティが日経「私の履歴書」で1990年にスカラ座で26年ぶりにトラヴィアータを復活上演した時のエキサイティングな体験を語っているが、様々な障害を経て上演にこぎつけたものの、第1幕の終盤に差し掛かっても異様に静かなままの客席を背中に感じてヴィオレッタ役ティツイアーナ・ファッブリチーニに楽譜にない超高音の「ミ・フラット」を「発射」させて冷ややかな観衆を熱狂させたくだりが紹介されている。

この日のオロペサがその「ミ・フラット」を出したかわからぬが、観衆の心を熱狂させたことでは90年のスカラ座に引けを取らぬのではないか。

それほどオロペサの声の表現力とその再生帯域-特に高域ーの広さは感嘆に値するものであった。

あわせて合唱の規律の高さ、声質の良さ、そしてローマ歌劇団響の演奏水準の高さも際立っていた。

引越し公演、などといっても所詮極東公演の一つで本場とは比べるべくもない、という懸念は吹き飛んだ。

この人達、本気だ。本気でそのヴィルトゥオーソを発揮してわれわれ日本人をノックアウトしにかかっている。

嬉しいねえ。

嬉しくて普段は幕間に飲まないワインの杯を息子と共に空けて彼らの特筆すべきパフォーマンスについて素人語りする楽しさ!

終演後も居酒屋で長男と行った感想戦でも盛り上がり、この素晴らしい公演に立ち会えたことをお互いに祝福した。

長男は慌ててトスカのチケットの「売り」情報を検索し始めたが、果たして・・・・笑

(写真は最初のもの以外日経新聞その他ネット上のものより無断転載)

# by windypapa | 2023-09-17 16:08 | music | Comments(0)

はこね絵日記

台風13号に吹き込む南から来た湿った空気が北から降りて来た冷たい空気とぶつかって局地的な大雨が関東各地を襲った金曜日、ついてないなあとボヤきながら我々夫婦はロマンスカーで箱根に向かった。

幸い件の大雨は我々の旅行ルートは見逃してくれたようで、降ったり止んだりの天気で済んだが、外房や茨城県の海側の被災地の皆さんにはお見舞いを申し上げる。

箱根湯本も雨天のせいかさほどの人出ではないが、やはりインバウンドのお客様が目につく。せっかく来てくれたのにこの天気で申し訳ないね。オイラが謝る筋じゃあないけど。

いつもは穏やかな早川もこの日はチョイと険しい様相で茶色い濁流が流れていた。

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薪火の釜で焼いたピザを食べた後、旧東海道沿いにある宿まで急坂を登って荷物を置きに行き、近くにある早雲寺で北条5代の墓に参って1号線に引き返し、通り沿いの土産物屋を冷やかし、路地で目に留まったアイスクリームを食べて(旨かった!)歩き疲れた頃に有料の送迎バスに乗って宿へ向かった。

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早雲寺の庭園

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路地裏のアイスクリーム

宿は最近リノベされた様子で小ぎれいだが接遇の皆さんはたどたどしい日本語を喋る方々だ。

そういう時代なのだなあ。

彼女たちの一生懸命な姿勢は大変好ましいものであったけれども、いわゆる温泉宿の風情・接遇はもっと高級な宿に行かないと味わえないということだろう。

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他方、こじんまりとした宿ゆえに風呂も食事も他の宿泊客を気にする事なくゆっくりと過ごすことができたのは幸運であった。

須雲川のせせらぎを聞きながらひとり露店風呂に浸かって手足を伸ばす。

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夕食も贅沢な食材ではないが温かい皿を出そうという努力が汲み取れ、美味しくいただけた。

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食リポのうるさい今どきは刺身に冷めた煮物や天麩羅では評判が保てぬのだろう。

翌朝の朝食もなかなかの力作で満足。こういう時でなければ和朝食はいただけない。

チェックアウトして湯本駅から登山電車で強羅に登ると周りは霧が立ち込め、箱根らしい雰囲気に。

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霧の中バスでポーラ美術館へ向かう。

霧に霞む木立の中に現れるガラスとコンクリートの近代的な意匠の美術館は非日常的なインパクトがある。

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シン・ジャパニーズ・ペインティング展ー革新の日本画 という近現代の日本の絵画を紹介する展示会をやっていて、なかなか楽しめた。

美術館は展示された作品のみならずその展示された空間を楽しむもの、であるとすればポーラのこの美術館はかなり満足度の高いそれを用意してくれており、都心の週末の混雑した美術館のようなストレスとは無縁の、アートにゆったりと向き合う時間を楽しむことができる。

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館内のレストランも白く統一された広い空間から大きな窓で取り込んだ小塚山の景観を楽しむ工夫がなされており、この日は折からの霧と霧雨が風で左右に流れる様がまるで映画のワンシーンのようで幻想的であった。

食事そのものも大変美味しくいただけた。

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さあ、そろそろお家に帰ろう。預けた犬を引き取り散歩に行かねば。笑

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# by windypapa | 2023-09-09 20:21 | 日々是好日 | Comments(0)

庭のマエストロたち

昨夜帰宅すると自宅の植込みから虫の音が聞こえてきた。

耳を澄ますと庭のそこここで虫達が鳴いている。

ああ、そうか。ようやく季節が変わろうとしているのか。

何をしても人を腐し毀誉褒貶かすまびしい浮世だが、地軸だけは律儀に1ミリずつ傾き季節を刻んで行くのだ。

そういえば2〜3日前から昼間の日差しも幾分和らぎ、吹く風も熱気ではなく涼しさを感じるようになった。

と言っても一日中冷房つけっぱなしの生活に変わりはないのだが。

四季がなくなり夏と冬だけになったと嘆く向きはあるが、ほんのちょっとの季節の変わり目の兆しを見つけて喜ぶのも一興だ。

7月に庭に入った植木屋が草木を綺麗さっぱりと刈り取ってしまった箱庭に目を向けると、そこかしこに愛らしい花も咲いている。

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ゼフィランセスあるいはサフランモドキ

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カンナ

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たくさん実をつけた夏ミカン


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ワンコの散歩道で見つけた他家の植え込みのパプリカ

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車で5分ほどのところにシャトレーゼという洋菓子チェーンの店舗があるが、安かろう不味かろうの勝手な思い込みで食わず嫌いを決めていたが、1年ほど前に改装した店舗を今頃訪れてみると店内はずいぶん垢抜け?て、ケーキ・焼き菓子類に加えてパン類もガラスケース内に並び、さらにワインも棚に並べられている。

よくみるとワインはシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローの三種がリターナブルのガラス瓶を使って樽からの量り売りもされている。

リーズナブルな値段につられて試したところ、酸化防止剤や添加物が混ざっていないことから実に飲みやすく添加物による後味の悪さもない。

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高級ワインのコクや味わいと比べる愚を犯さねば普段飲みの2千円クラスのワインよりこちらの方が断然好ましい。

ということから最近はせっせと酒屋ならぬ件の洋菓子屋にワインを買いに車を走らせている。

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今週は3日間リアル出勤であったが、通勤電車はコロナ禍前に戻ったかの混雑でげんなりだ。

炎暑の疲れとBehringer DCX2496の改造失敗もあって地下の要塞に足を向ける気持ちも萎えていたが、今日は気を取り直して地下アジトの扉を開けてシステムに向かい合った。

Behringer DCXがラインから外れた後、800Hz以上の帯域はクロスオーバーネットワークを外して中高域はTAD TD4001とスーパーツイーターTANNOY ST50のパラ接続に変更し、その結果JBL075も戦力外にて待機していたのだ。

これはこれでまとまりがよく、聴き疲れしない音であるが、何か物足りなさを感じてしまう。

そこでこの帯域を受け持つWE271Aシングルアンプを外し、今年入手して音出し確認後手付かずでいた金田式6C33C-Bトランスレスパワーアンプをつないでみる。

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見るからにゴツい容姿からゴリゴリの音が出てくるかと身構えたが、存外滑らかで澄んだ高域を聴かせるので驚いた。


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発熱も半端ではないが、中高域を川の流れに例えるなら水量が増え河幅が増した感じである。

しかしわずかな残留雑音が気になる。

今までなら目を瞑っていたこれらの「課題」を解決しようと思い腰をあげよう。

まずは中高域にクロスオーバーネットワークを戻し、JBL075をシステムに再投入してみる。

ターンオーバー周波数は850Hzと8,000HzだがKRELL KBXからは800Hz以上が流されてくるので800Hzから8,000HzまでをTAD TD4001に、それ以上をJBL075とTANNOY ST50に委ねる、という形だ。

すると出てきたのは懐かしい慣れ親しんだ音。

中高域の押し出しが増し、凄みのある低域が姿を現した。

そうそう、この音だ。

気になっていた残留雑音もクロスオーバーネットワーク中継の効果か、あるいはMIT750のゴツいケーブルのおかげか、ぐっと低減した。

このレベルなら問題ない。

I'm back! と高らかに宣言したい気持ちだ。

プラス6C33B-Cアンプのカラーも加わり、より分厚くなったぞ。

ウ〜ン、悪くない。

いや本当はもっと嬉しいくせに。はは。

デジタルチャンデバの自在なターンオーバー周波数設定とアラインメント調整機能に後ろ髪を引かれつつ、今あるもので最善を尽くす。

振られた彼女の面影をいつまでも追っても仕方ない。

人生は「さようなら」と「こんにちは」だ。

え、誰の受け売りだい?

# by windypapa | 2023-08-25 21:53 | オーディオ | Comments(0)

ダイハード、だぜい

この丸1日、盛りを過ぎた向日葵のようにこうべを垂れ打ちひしがれていた。

Behringer DCX2496のリニア電源化に向けてリサーチ段階で早々にデフォルトのスイッチング電源をショートさせて葬り去り、背水の陣で臨んだバッテリーバラック電源でも痛恨の接続ミスを犯して本体基板のオペアンプ1つを焼損させてしまったからだ。

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電源部を外し5種類のDC電源を選り分けたところ・・までは順調だったのだが

あ〜もう!なんてこった!

ど素人のくせに知ったかぶりでオーディオ機器内部を開いて改造しようなんておこがましいにもほどがある。

特にPCBの電子素子はミリタリー仕様の真空管のような図太さはないので、ほんの少し手先がぶれただけで取り返しがつかないことになる。

もうや〜めた。電子基板には金輪際手を出すまいぞ。

柄にもなくショックでオーディオの電源を入れても気もそぞろ、の有様あったが、丸1日経って気持ちの整理もできた。

Behringer DCX2496のおかげで目覚めかけたマルチのバリエーション開拓に封印することは痛恨だが仕方あるまい。

Behringer DCX2496を廉価でオークションで拾うことは難しいことではないが、そこからモディファイして行く手間とコストを考えるときりがないし、自作を封印すれば第三者に委ねることになってさらにコストもかさもう。

キッパリとBehringer路線とは手を切ろう。

夏休みの課題としては面白かったし、マルチの設定次第でまだまだ発展の可能性があることを知ったことが収穫だ。

ここは一旦兵を引き、Krell KBXの2wayで別の機会を待つことにしよう。

実験用のバラック電源に使ったバッテリーを金田式DAC用に組み直すが、DC9Vバッテリーのアダプターの接触が悪くなってしまった。

やれやれ、悪いことは重なるもんだ。

今回のインシデントによるバッテリー駆動のトラウマもあり、金田式DACもAC電源部を復帰させて鳴らすことにした。

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うん、この方が見てくれも良いし、音もぜーんぜん変わんねえじゃねえか。(バッテリー駆動に変えた時は真反対のことをほざいた気がするが・・・)

中域用の6CA7PPアンプも撤去してスッキリした。

というわけで現在のチャンネルデバイダー 以下のシステムラインナップは、

チャンネルデバイダー Krell KBX(800Hzクロス)ー①低域 Jeff Rowland Model2〜TAD TL1601a、②中高域 Western Electric 271Aシングルアンプ〜TAD TD4001 & TANNOY ST-50 パラ接続

という構成だ。

以前との違いは中高域のクロスオーバーネットワークとJBL075をラインナップから外したこと。

負け惜しみだが、これでも十分良い音なのだ。

デジタルクロスオーバーによるアラインメント調整の音の変化さえ記憶から消しておきさえすれば。

ふん、今にみていろ。

# by windypapa | 2023-08-20 20:41 | オーディオ | Comments(0)

好きな音楽やスポーツの話題

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