クルレンツィスのレクイエム

さてクルレンツィスのレクイエム、2010年録音で2019年8月末にリリースされた2枚組45rpmヴィニル盤である。
1500枚プレスで一枚ごとにナンバリングされている。
いつもながら新着情報に疎いので今更の感想文となるのである。

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Introitus冒頭で低く主題を奏でるファゴットと背景でリズムを刻む弦楽器の幽玄な音色に、そしてその奥に潜む臨場感にのっけから蝸牛神経が目を覚ます。
オケのトゥッティで重厚な天上の扉が開き、悲痛に響く右chのヴィオラ(第2Vnか?)が聞くものを祈りの場に引き込む。
そして中央にすっと立つ清らかなソプラノ 透明感溢れるマニフィカートによって脳の浄化が始まる。
4人のソリストとコーラスは各パートが交差すれども混濁せず、それぞれの立ち位置を示しながら素晴らしく見晴らしの良い音の景色を描き出す。

Kyrieでは一転してコーラスの、パートからパートへ疾風が吹くようにバトンを渡すまるで演劇のようなダイナミックな展開を聞かせると思えば、Dies Iraeは強烈に吹きすさぶ北風に身が翻弄される。右chで弦を叩く弓の音は悪魔が扉を叩く音か?

Tuba Mirum 春の到来を思わせるおおらかなトロンボーンの音色とバリトンの歌唱にホッと一息をつき下ろしかけた腰を、続くテノールの張りと艶が再び立たせる。歌声はアルトからソプラノに引き継がれ、ソリストたちの美しい四重唱に実を結ぶ

そしてREXのストリングスの刻むキレの良いリズム!こうきたか。

RECORDAREの天上から降り注ぐ光のように上下する音階を奏でるバセットホルンと聖なるストリングス、そしてそれに導かれた天女の羽衣のごとき四重唱。

一転CONFUTATISの、吹けよ風呼べよ嵐とばかりに獰猛な牙を剥き出しにするチェロ・コントラバスの重いリフ。そしてそれを鎮める天上から降り注ぐコーラスとバイオリンパート。

そして深い祈りの旋律を引き継いだLacrimosaのラストに鳴り響く鈴の音は、聴く者に何かを思い起こさずにはいられぬ、あるいは何かの欠落を思い知らされるような、切なさを帯びる。

Domine Jesuの彫琢感溢れるストリングスとコーラスが緊張感を保ちつつ絶妙に絡み合い織りなすアラベスク。平穏な歌声で始まり転調を繰り返すHostiasの上質なテキスタイルのような質感。そしてそれに浸る間もなく打ち鳴らされるSanctusの大太鼓の祝砲の迫力ときたら。

一体これがヴィニル盤から、あるいはオーディオ装置から再生される音なのか?

このように一つ一つの音が自立しつつディテールを照らし出し、うっとりするように美しい、しかし時に冬の嵐のように激しく厳しい音の風景を、眼前に描き出す音源があったろうか?

これ以上楽曲ごとの素人評を続ける愚は避けよう。

それにしても2枚組というのに全曲聴き通しても50分弱という、聖なる小宇宙を巡る巡礼の旅。
片面平均12分弱の演奏時間ではうたた寝する暇もない(笑)

こんな素晴らしい内容と録音のヴィニル盤、今まで聴いたことがない。すごいぞALFAレコード。

ナクソスの解説では「音源は192 KHz/24bitのハイレゾリューション。DMM(ダイレクト・メタル・マスタリング)カッティングの採用により、マスター製作までの工程で発生するノイズやゴーストを低減し回転数45rpmで180g重量盤2枚に収録」とある。

そうするとこの音質のただならぬレベルはDMMの為す技なのか?と思って我が家の至宝(笑)ラトル指揮BPOのブラームス交響曲ボックスを取り出して聴いてみると、首を捻ることになる。
確かにあるレベルを超えているが、それは一定の枠内に納まっている。

それではと他の45回転盤を取り出すが、これらも通常の枠の中にある。

結局のところ、この素晴らしい音がどこから来るのかよくわからない。わからないので毎日聞く破目になる(笑)

今夜も我家の地下室にレクイエムが響く。

時節柄相応しいのか縁起でもないのか。

by windypapa | 2020-03-03 22:10 | music | Comments(0)

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