こころ朗らなれ、誰もみな

2年前に出版されたハルキ本をほとぼりも冷めたじゃろうと今頃読んで、通勤電車内の読書習慣が復活した。
以前記したように、みなと図書館というオアシスを見つけたのも追い風となっている。
ということで、最近読んだ本の備忘録。


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グスタボ・ファベロン=パトリアウ「古書収集家」
表題からどこか薄暗いアンティークな古書店の店主がかかわるちょいとヒネリの効いた話かと思いきや、「作中にちりばめられた狂気、暴力、死、不条理、奇怪、あるいは恐怖にまつわる数々の逸話によって具体的に表現される、合理的思考では処理しきれない問題」が「スリラーやサイコ・ホラーやゴシック物語を意識した」語り口で、「錯綜した文、難解な語彙、当惑させるような形容詞、関係詞の多用、意表を突く比喩表現」によって意図的に複雑化された文体で綴られる物語なのであった。*「」内訳者あとがきより
これらは作者の国籍であるペルーの政治暴力による忌まわしい事件、テロによる家族関係の瓦解などが下敷きにあるようだが、それらの素材をごった煮にして強引にサスペンスに仕立てているところが作者の剛腕ともいえる。
それでいて救われるのは、どろどろと混濁した物語を語る醒めたガラス越しのような主人公の視線であり、読者もそこで間一髪精神のカオスに引き込まれずに踏み止まることができる。
普通の翻訳であれば、理解不能、文法崩壊にもなりかねない難文を、よくぞこの高野雅司という訳者はものにしたものだと感心する。
いや、それにしても通勤電車の中で読むには重すぎる内容。(笑)

ヘミングウェイ「こころ朗らなれ、誰もみな」柴田元幸訳
40年以上前に読んだ短編集を柴田訳で再読。その簡潔にして物事の質量を捉えた表現は「古書収集家」となんという好対照か。
車掌に線路に突き落とされ、軌道を歩く青年が焚火中のボクサー崩れの男に出会うThe Battlerや、ダイニング・バーに二人組の男たちがやってきて店主と客の青年に凄むThe Killersは「ああ、こんな話があった」と思いだしたが、他はあまり記憶に残っていなかった。
それにしても白眉は五大湖周辺の豊かな自然と鱒釣りを描くBig Two Hearted RiverとThe Last Good Countryで、テントのキャンバスに止まる蚊をマッチで潰すところとか、鱒釣りの餌の飛蝗を捕まえて針に挿すところの描写など、主人公の一挙手一投足が生き生きと活写されて、自分がその原野にいるような気持ちになってくる。
The Last Good Countryは、そこに追跡劇のサスペンス要素が加味され、実際には現れない「付きまとう少年」や「頭痛で寝込んだ母親」達も、大きな存在感を放ち、ちょっと映画的なふくらみを感じさせる。
以前読んだ時はこちらも高校生のガキで中西部の大自然と言われても想像力がついて行かなかったのだろうが、今回豊かな読後感を得たのは、柴田元幸の訳の出来も大きく貢献しているんだろうな。

GWを前に今日も昼休みに「みなと図書館」に向かう。


by windypapa | 2019-04-26 14:28 | 日々是好日 | Comments(0)

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