Black Widow 長期就労ビザ獲得

ノースカロライナはデンバーからやって来た黒衣の魔女。
ハロウィンはもう終わったよ、というつれない声は聞き流し、そそくさと旅装を解く。

1年半前に旅立った彼女とは瓜二つだが、まるで違う過去を持つBlack Widow。

コネチカット州WoodbridgeのFactoryを出るときも別の便だったのだろうか?

今回は縁があってしばらく我が家に身を寄せることになった。

日本は初めてかい? と尋ねると、じっとこちらを見つめる目がただ赤く光る。

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先代を送り出すときに、リザーヴのフォノモジュール基板やLemo/RCA互換コネクタなど手放してしまったが、手元に残ったLemo/RCAコネクタと、今回の「旅装」に含まれる変換ケーブル数本とで、取敢えずアナログとデジタルの入力を繋ぎ、アウトはパッシヴ型チャンネルデバイダーに接続して音を聴いてみよう。

先代では試さなかったバイアンプ駆動で、レヴィンソンの音がどのように聴こえてくるのか、興味津々である。

まずはこのところ首ったけのTHORENS TD124×LYRA ARGOの出力を接続する。

今回来訪のものはMCカートリッジ対応のフォノモジュールを搭載しているので、Malotkiトランスをスキップして接続する。

・・・・・・・・無音だぞ? ハムはもちろん、サーっというフォノノイズすら聞こえてこない。

さてはどこか配線を間違えたかと見直すが、結線はノーマルだ。そのくらい、ノイズレベルが低いのだ。

オーマンディ指揮フィラデルフィア響のAlfven "Swedish Rhapsody"に針を下す。
着地音のあとトレースする音に続き鳴り響く導入部で、正しく接続されていたことを知る。

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どうやらヴィンテージ真空管騎士団によるLCRフォノイコのノイズ圧縮作業に追われ、ソリッドステートのノイズレベルを忘れていたようだ。(笑)

いやあ、気持ちいいねえ。この静謐感。

待てよ?先代の魔女もこんなに静かだっただろうか?

うむ、よくわからんが、SPU大作戦で投入したフォノケーブルやらファインメットやらが効いているのかもしれない。

そんなことより、鳴り響く音楽だ。

ヴァキューム・チューブ騎士団の「濃い」風味に慣れた耳には、比較的フラット(平板)でフェア(毒のない)な音が聞えるかと思いきや、思いの外「前」に張り出す押しの強さを発揮して、クールな仮面の下の熱情があらわになる。

血は争えない、やはり相当な気性の激しさだ。(笑)

特筆すべきは広い帯域に渡る高い分解能だが、音源を掘り出す功はArgoにあるとしても、それを忠実に再現するBlack Widowには畏れ入る。

おいおい、まだウォームアップだぜ、お嬢さん。

Thad Jones / Mel Lewis And The Jazz Orchestra Meet Manuel De Sica

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高音質盤でない、適当に「荒れた」盤をあえて再生しても、涼しい顔で熱い音を叩きだす。

こちらがヒートアップしてくる始末。

しばらく数枚のヴィニルで音の傾向を探った後、今度はDELAにストックしたデジタル音源を聴いてみよう。

Carpenters "The Singles 1969-1973"96kHz/24bitの”Yesterday Once More”、エコーが効いて唇がぽっかり大きく開くのがお決まりだったのに、エコーはきいているものの、唇はフォーカスされ、「滲み」の要素が薄れたのがわかる。

同”(They Long To Be) Close To You”、ハイレゾ音源はリズムセクション、特に低域が強調されたマスタリングだが、Black Widowが作り出すのは、さらに力感溢れるサウンドステージだ。

まるでドラマーの腕回りが倍になったかのような力強さだ。まさかカレンが叩いているんではないよね?(笑)

この音にインスパイアされて、腕っぷしの強いドラマーのソースをclick!する。

Roy Haynes "Love Letters"から”The Best Thing For You”、”Afro Blue”。

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これは驚愕だ。

思わず後ずさりするようなヘインズのドラミング。すぐ目の前でスティックが舞っているような、激しい空気振動に包み込まれる。もはや乱気流だ。

Dave Hollandも負けてはおられんと、これでもかとグルーヴ感たっぷりにベースを歌わせる。

低域の再生可能範囲が一度下がり、下からベースとバスドラがぐいぐいと突き上げてくる。

今まで我が家で聴いたことのない、このソース史上最強の再生だ。

「我が家史上」というのは無責任でらくちん、エクスキューズそのものの言い回しだが、正味、近年どこでも聴いたことのない濃厚でガッツあふれる音なのだ。

これはちょっとレヴィンソンのML-1の先入観が改められたな。

もちろん、バイアンプという形で音を披露するのが初めてという点、そして低域を鳴らす相手が自家薬籠中ともいえる、ML-3ということも結果に大いに貢献しているのであろうが、それにしてもである。

むしろMLASの個体差(製造後40年を経たエージングを含むとしても)が耳を驚かす最大の要因である、そんな気がしてならない。

MLASオーナー、特にLNP-2を複数台所有するオーナーの話を見聞きするケースが多いが、かれらも個体による音の違いを愉しんでいるのだろうか。

今回のML-1で初めて「個体差」を身をもって認識した次第。

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こちらお約束の身体検査。

怪しいマジックの種は何も入っていませんぜ。

いや、このモジュールが曲者かもしれないなあ。

なにせ替えが効かないブラックボックス。

飽きっぽくて新しいものにすぐ飛びつくお調子者の僕だが、短期間就労予定のBlack Widowに早くも長期就労ビザを発給する構えだ。

ヴァキュームチューブ騎士団よ、沙汰あるまでしばし待て。


by windypapa | 2018-11-19 16:06 | オーディオ | Comments(0)

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