黄昏に港町で美酒に酔う

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クリスマス前のうららかな日差しに恵まれた土曜日の午後、家族連れや恋人達で賑わう山下公園にほど近い、とあるアパートメントの入口。
周りの人達とは少しく空気の違うシニア世代の男が一人また一人と引き込まれていく。

男の一人がアパートメント内の階段を上がりドアを開けると、そこは広いレセプションルームで、奥の部屋から漏れだした音楽で満ちている。

コートをかけて次の間に進むと、そこはスタイリッシュなラウンジで、奥にキッチンスペースとダイニングスペース、手前にグランドピアノを備えたソファスペースが広がり、広大なエアボリュームがアパートメントの内部である事を忘れさせる。

公園の街路樹とその先の港を望む東側は全面ガラス窓で、中天を過ぎても陽の光が間接的に射しこんで来ているが、そのガラス面から少し間隔をおいて設置された奇妙な、しかし存在感を感じさせるフォルムの欧州製スピーカーから、先程から空間を充たす熱い演奏が流れ出ている。

欧州の教会の尖塔のようなメカニカルでユニークなフォルムから、その音はクラシカルミュージック向きと考えがちだが、そうした先入観を嘲笑うかのように、会場を満たす音は熱くスピード感に溢れている。


・・・なんて感じで書き出してみたけど、ちょいとスノッブな雰囲気が伝わったであろうか。そんなオサレな会合に少し背伸びして参加してきた。

総勢30名弱の大集会を取り仕切る主宰者のご苦労が偲ばれるが、その存在感のある尖塔、否、無指向性中高域ユニットと堅牢なウーファーユニットが織りなす音は、広大な会場を難なく埋め尽くし、しかも会場内のどこにいても同じようなクオリティの音を聞くことができるという能力を十分に示していた。

もちろん入念な準備があったらばこそなのであるが、それでも借り物の会場にポン置きに近い形でこれだけのクオリティを現出させるとは、畏れ入谷のクリヤキンなのであった。(古い!)

円錐形のカーボンファイバーを上下から円盤が挟み込み、周りを金属製のリムが取り囲む、教会の尖塔というより何やら鉄人28号に出てくるようなキカイとその置台となる高価そうな意匠を施した箱からは、繊細な音がじわじわと滲みだしてくるのかと思いきや、先ほど来ビシバシとハイスピードで実体感のある音が飛び出している。しかもその尖塔を支える堅牢なエンクロージャーの前後に配される小口径ウーファーからは、レスポンスの良い、予想を裏切る豊かな低音が響いてくる。

カラヤン指揮キーシンpf演奏によるチャイコフスキーピアノ交響曲♯1、同カラヤン指揮BPOのベートーベン交響曲9番の第4楽章、双方のデモでは18㎝のウーファーとは信じられない豊かな低域が口を開けて聴くものを引き込んだ。

この音にはもちろん種も仕掛けもあって、主宰者が腕によりをかけて用意したDSDソースと、パワーアンプ2台によるマルチ駆動、そしてウーファーのf₀特性を改善するという、コンデンサーアレイのような謎のバラック、等々が徐々に明かされていく。

なかでも印象に残ったのはマルチとネットワーク駆動の聴き比べで、当日の条件のもとではマルチが圧倒的に素晴らしかった。越路吹雪のヴォーカルの立ち方がまるで違う。隣に座った百戦錬磨のS氏が、以前聴いたライブの越路吹雪と同じ歌声だと仰るほど。

うーむ、思わず値段に聴き耳を立ててしまう。・・・いかんいかん、これ以上妄想を掻き立ててはいけない。分相応に暮らすのがこれからのモットーなのだ。(って、いつ決めたんだそれ!?)

そうしたA型血液種の穏便な思考が大きく動揺したのは、当日の会場を提供された方が、別のフロアのプライベートスペースに置くオーディオシステムへのミニツアーにいざなって下さったときである。

エレベーターに揺られてぞろぞろと入って行ったその大空間は、通常の1世帯分の居住区をワンユニットにリノベーションして創出されたもので、主の情熱とセンスがふつふつと感じさせられる、熱くしかしスタイリッシュな空間なのであった。

この国の主は、中央に居座るKing CrimsonならぬKing Paragonであり、王をマルチで支える強力なブラックフェイスの増幅兵軍団が脇に控え、司令塔にはMarantz 7閣下が立ち采配を振るっている。

オーナーによって照明が落とされ、後背壁面下部からの間接照明がParagonのシルエットを浮かび上がらせると、視覚的効果もあって巨大な質量を持つ生き物が息づいているような錯覚にとらわれる。

モノの佇まいや視神経から入る情報と刺激に弱い僕としては、音が出る前からその質量感とそこから出るエネルギーにはや感銘を禁じ得ず、LE15Aが、375が、075が、ワンフレーズ歌いだしたときにはもう勝負は決したも同然であった。

それはまるで鋭い音の切っ先を鼻先に向けられたかのような一撃であり、続く一連の演奏が終わったときにはJBLのフラッグが砦に立って打ち振られるドラマを観たかのようであった。

目の前に聳えるParagonの音に蹂躙されながら、しかし心に浮かんだのは懐かしい音色に出会った幸福感であった。

思いっきり先端的で洗練されてはいるが、しかしそれはまごうことなきJBLの音であった。

おかげで最初のラウンジに戻っても、もはや教会の尖塔が発する美音に惑わされることなく、平安な心地で素晴らしい食事とワインを愉しむことができたのである。

食事に移る際に配布されたワインリストを見て楽しみにしていたのが「トリ」のシャンベルタンであったが、この日のお宝はその前の「シャンボール」にあった。

これほどフルーティで滋味あふれる味わいにはなかなか巡り合うことはない。思わぬところで絶世の美女に巡り合ったような僥倖だ。

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Paragon王国にはとても手が届かないが、精一杯背伸びしてこの日の白眉、Domaine Anne-Francoise GrosのChambolle Musiqgny2013を手元に置き、年を越すことにしよう。





by windypapa | 2017-12-23 22:22 | オーディオ | Comments(0)

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