ワッタガッタ

ワッタガッタとはハングルで「往来すること」の意味である。

4月末からオーディオの縁でそんなワッタガッタがいくつかあったので記録しておこう。

まず4月末に百十番さん http://www.geocities.jp/iios9402/ がやって来られた。

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百十番さんからいただいた和菓子。おいしかった。

全く面識が無い方の訪問を受けるのは初めてだったので、どうしたものか少し戸惑いもあったのだが、お会いしてみれば同好の士、一緒に楽しいときを過ごさせていただいた。

お土産でいただいたecologaの磁場シールドシート、これをDAC電源ケーブルに巻くと今まで高域がキツくてGive Upしていたヒラリーハーンのバッハ バイオリンコンツェルトがすっと耳に入って来るではないか。

喜び勇んで続きを聴いていると、なんだかシステム本来の音の勢いが削がれ、若干大人しくなってしまうきらいもある。

うーん、こういうアクセサリーの使いこなしは難しい。難しいが、初めてヒラリーハーンのバッハをある意味「制圧」できたという点は単純にウレシイ。

もうひとつの気付きは、上記シートをいろいろ試す中でDACの上蓋を取り払ったときに聴いた素直な音色だ。

おかげで藤原基板を使ったDACを、より伸びやかでナチュラルな音色で鳴らせることを発見した。我が家のdigital再生にとって大きな前進。

そんな嬉しい出会いのあったGWも明けた5月の16日〜18日、「米独真空素子の韓国にもたらした文化的影響とそのフリークの生態」を研究するため、戯れる会有志が結成した第2次調査団が韓半島に上陸した。

団長は広範な文化的教養を誇り、戯れる会の人文学系知性の象徴たるS氏。
副団長は同会のデジタル再生とアナログテープ再生の理論的実証者でありまた文科系の教養も併せ持つオーディオ学究派のO氏。

戯れる会が誇る2大知性の耳に果たしてプサンのビンテージオーディオはどのように響いたのか。迫真のレポートをお届けする。

なーんて3流週刊誌の見出しのようなCopyで始まった戯れる会海外合宿第2弾。今回もオーディオの畏友、李さんの全面協力を仰いでお二人様をご案内した。

丸1日使える中日は慶州観光しよう、という小生の提案は一蹴され、李さん宅に乗り込んだ調査団、並々ならぬ決意である。しかし珍島犬ジャンの決して好意的とは言えぬ歓迎にたじろぎ、玄関の上がり口に積まれたヴィンテージパーツストックに驚かされる。
このあたりで既にモメンタムは李さんに傾いている。

Westernのコンデンサー、トランスをはじめアッテネーター、半田、その他部品が山積みである。さらにキッチンの冷蔵庫脇にある一見棚のように見えるものの天板上に置かれた海苔だの何だのの食材を撤去すると、EMTエンジニアによる業務用ターンテーブル&フォノイコセット(見た目は全くEMT)が姿を現す。

ひとしきり「ほほう」を連発した調査団はそのままオーディオルームに進み、部屋の一方を塞ぐように立ちはだかる、巨大な平面バッフルのクラングフィルムのフィールド型SPに相対する。

いつみても圧倒される存在感。当日李さんは完成後間もないWestern102, 104を中心に組み上げられたLCRフォノイコ付プリアンプで我々を迎えうつ。

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これはムンさん製作の直熱三極管使用LCRフォノイコプリ二号機であり、一号機(我が家のもの)と比べていくつか手が加えられている。
ひとつは電源部のリレーを廃し、ヒーター電源と+B電源の送り出しスウィッチを別々に設置したこと。もう一つはラインアンプ部初段のカップリングコンデンサーにWesternのタワー型Cを使用していること。そして本体のハムバランサーをシャーシに直付けし、裏蓋を外さなくとも調整ができるようにしたことである。これらはすべて一号機製作後の学習により見直したものである。

一通りのシステム紹介を行った後、まずはCDを再生してみる。
今までSIEMENS Ca-Daラインプリアンプの音に親しんでいた僕の耳には、その音はあっけらかんと言っていいほどストレートに響いてきた。

Klangfilmの巨大ホーン特有の音離れの良さと相俟って、エンクロージャーとリスナーの間の約4mの距離を感じずに音の波が押し寄せる。これがウェスタンサウンドの真骨頂か。ボーカル帯域に独特の力強さと艶が乗る。

しかしまだ慣らし運転の段階なのだろう、エージング後には、まだ控えめの高域・低域もグッと出てくるのだろうと予感する。

以前のDaプリがワイドレンジな中に木陰で独特の陰影を楽しむようなテイストを持つアンプだったとすると、このWesternプリは雲一つない空のもと、燦々と輝く太陽のもとで音を浴びているようなテイストだ。

O氏が持参したムラビンスキー指揮レニングラード響のショスタコビッチ8番第3楽章では、前夜の拙宅での再生では一糸乱れずと思えたストリングスの微妙なタッチの差も表現され(S氏談)、玉礫が飛んでくるような迫力の管楽器群の咆哮に度肝を抜かされた。このあたり、Klangfilmホーンの威力がまざまざ。

その一方で同じくO氏持参の2トラ38のオリジナルテープ音源から焼いたシューベルトのアルペジオ-ネ・ソナタ イ単調D.821(ロストロポーヴィチcello&ブリテンpf)のCDRではチェロの音に少しフィルターがかかっているようにも感じられる。
これも少しあっさり目の低域表現同様、これからエージングを経て出るところは出て引っ込むところは引っ込み、落ち着いていくのだろう。
いずれにせよ、素晴らしいスケール感と存在感を感じさせる音である。

続いてアナログ再生の部。LCRプリ完成に備え、新たにケーシングした李さん秘蔵の昇圧トランス3種を前にS氏、O氏の目が輝く。
一つはノイマンBV33a。業務用システムから部品取りした完全オリジナル品だという。
もう一つはEMI製、そしてもう一つがWE製である。型番は失念したが、李さんがずっと抱えてきた秘蔵品である。さらに以前からケーシング済みのEMIの高倍率のトランスも含め、Ortofon SPU-Aからピックアップした音を聴き比べてみる。
S氏、O氏が軍配を上げたのはやはりノイマン。次いでEMI2種、という結果。耳の感度が悪い僕はノイマンとEMIどちらでもいいかなあ、という感じ。WEは少しくすんだ感じで本調子ではなかった。いずれにせよチョイ聴き評価なので、じっくり通電すれば別の結果が出てきたかもしれない。

アナログ試聴ではしかしハムとその他のノイズが発生。午前中で電圧が低いなど電源環境に問題があったのか、など分析してハムバランサーの再調整など即席手当を行うも根絶には至らず。ビンテージアンプは組み上げて終わりではなく、そこから数か月かけて調整し音を練り上げることが必要なのである。僕も身を以て学習しているところだ。
(我々と別れた後、李さんは猛然とトラブルシュートに取り組み、プリアンプ使用球のヒーター電圧が規定と比べてバラツキがあることを突き止め、これを改善してノイズを封じ込めたそうだ。脱帽。)

試聴を終えてから一同で海鮮鍋をつつきながらオーディオ交歓会。李さんが日本語堪能で本当に助かった。同じ趣味を持つもの同士に国境は無い。

さて拙宅でのセッションは金曜と土曜の夜、二晩にかけて行われた。

日本の住環境と比べてはるかに恵まれたこちらのアパート容積と硬質のタイルが張られたライブな環境に助けられ、2Wに満たない出力のPOWER AMPが駆動するWahfedale SFBが奏でる音はそれなりに期待に応えてくれたように見える。

しかし感性もオーディオ聴覚もミリ単位で鋭い両氏からは、直接的ではないが「もうひとつだな」「これはいける」的なニュアンスのコメント、あるいは雰囲気が伝わってきて、その都度一喜一憂しながらソースをかけ替える。

そうはいってもお二人ともあくまで仲間として腕試しあるいはサポートの意味で聴いてくれているのであって、合否判定を出すようなテストでもなんでもないのだが、グラスを片手に愉しく雑談しながらも両氏のオーディオ・インテリジェンスを信頼する僕としては、この地で紆余曲折を経ながら辿り着いた音が彼らの耳にどう響くかについて興味津々なのであった。

結局二人の反応から感じとったものは、「オーディオ的にフラットではなく低域の伸びと厚みもやや不足気味、音質的に毛羽立ったりデフォルメされた部分も感じられるが、概ね素性はよく、ゾクゾクする雰囲気も感じられた。」という評価だ。

LCRプリとWE271A All Western Power Ampにもお二人は興味津々で、その佇まいからか、床の上に並べたその雑然さがよいというヘンな評価も頂戴した。

もうひとつ得点が高かったのがWahfedaleのSFB SPである。
後面解放と上向きツィーターの生み出す不思議な音場と少し陰影を感じさせる音色が彼らの琴線に触れたのかもしれない。

二日目の夜にはO氏のSPセッティング講習を受ける機会に恵まれた。適当な位置と仰角でセットしていたWahfedaleSFBを一旦リスナーに対して平行に戻し、モノラルCD音源を使って両SPの前後左右の位置を変えながらセンターを出し、そこからStereo音源を使って更に位置を調整し、さらに仰角をミリ単位で追い込んでいくというもの。

最後の段階ではまるでSPから出る音を見つめるように、SPの上から見下ろながらトントンと拳でエンクロージャーを叩いて位置を調整していただいた。

調整を続けるO氏の後姿を見て、以前ベイシーの菅原さんが自らのSP調整体験を記した本にあった「音が見える」という表現が頭に浮かぶ。

焦点があった時には劇的に音が変わるのでは?という期待をしたが、耳の感度の悪い僕にはそこまでリニアに大きな変化を聞き取れなかった。

しかしS氏の助言も得て取り敢えずのセッティングを完了した音は満足感を十分感じる音であった。O氏によると、上向きツィーターと右側SP裏にある機器群-特に使用していないEL34モノアンプのバラック-の影響で音がよく「見えず」セッティングしづらかったが、アンプのバラックを撤去すると右chの音の素性がよくなり、一気に調整が進んだ、ということだ。

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黄色いテープ位置が以前のSP位置。窓辺に写るのはSP背後から撤去されたEL34アンプのバラック。

翌日さっそくバラックを別室に運び込んだのは言うまでもない。

調整を終えて聴く音は今までより伸びやかで響きもよい・・・気がする。繊細な感受性に欠ける自分の耳を呪うしかないが、とにかく僕の場合は人より反応が緩いことを認識してゆっくりセッティングを詰めていくしかないのだろう。実際のセッティング方法を身を以て伝授してくれたOさん、そして助言を与えていただいたSさんに感謝。

交遊を通してつくづく感じるのは、オーディオという劣性遺伝的趣味の同好者は、ある種確信犯的な経済性優先社会への背教者であり、その趣味性から一見軟弱の徒のように見られながら実は強固な意志に支えられ、国境を越えようとも自らの意思が告げる場所に敢然と乗り込む強さを持っているということだ。
彼らは単に経済性優先社会に対して斜に構えているだけの自称アウトローあるいは他人が表するところの落ちこぼれではなく、しっかりと社会生活を営みながら、しかし閉じられた世界の中でしか共有できない情熱をじくじくと胸の奥で燃やしながら、それを共有することの出来る仲間との絆をとても大切に考えているのだ。
彼らの書棚には「コーチング」や「リーダーになったら読む本」、あるいは「ハーバードMBA講座」などの書籍は見つからないはずだ。その代わり美術書や音楽に関する書籍の間に混じって、若き日に読んだサリンジャーや漱石の書籍がひっそりと並んでいることだろう。

そんな彼らの訪問を、僕はいつでも歓迎する。

・・・てなこと言っていたら、先日韓国人の二人組が僕のアパートに乗り込んで来た。



by windypapa | 2014-05-17 20:56 | オーディオ | Comments(0)

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