ルソーの濃密なジャングルに迷い込む

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今日ここ釜山は雲一つない秋晴れに恵まれ、予定通り運動会も終了。よかったよかった。みんな、頑張ったねー。

その大事な打ち上げを謹んで辞退してまで僕が向かった先は、海雲台のとある場末のビルの地下1階。そう、誰あろうムンさんのアンプ工房だ。

まだ日の高い夕刻に着くと、すでに濃厚な音楽が室内から漏れだしている。

ドアを開けたムンさんに挨拶して部屋に入ると、先客キムさんがソファに座って何やら大きな声で感想を述べている。
李さんの翻訳によれば「ムンさんの工房でこんな濃密な音を聴くのは初めてだ。12AX7のLCRの音とは次元が違う。音の太さがまるで違う。」など仰っているようだ。

そっ、今日はついに完成したLCRフォノイコ付きプリアンプの試聴会。

といってもまだ仮の完成で、これから仮付けした韓国製の抵抗類などをAB製に変えたりする作業が残っているのだけれど。

昨夜は韓国焼酎をきこしめして半田ゴテを握れなかったというムンさんが、朝から必死のパッチで仕上げたと言うそのアンプの音はいかに。
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(後方ターンテーブル横がプリ本体。前方の台の上が電源部)

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それは一言で言って大地にがっしりと根を生やした巨木のような音だ。

巨木が部屋一杯に枝を伸ばし木の葉で壁面を覆い濃密な香りで部屋を満たすように、何とも言いようのないエネルギーがムンさんの工房を満たしている。

まるでアンリ・ルソーの描いたジャングルの中に迷い込んだようだ。

でも何かをデフォルメしたようなあざとさは無い。

あくまでナチュラルで、だけどダイナミックで、ワイドレンジで、しかも音数が多く、それでいて何とも独特の香りをもって、ぐっと聞き手を包み込む音だ。

空間をグリップしている、とでも言うのだろうか。

この状態で聞いたSANTANAの「不死蝶」B面3曲目からのインスツルメンタル・メドレーには驚愕した。圧倒的なトリップ感。濃すぎて頭がゆらゆらしてきそうだ。

とはいえ、配線が終わって本当に間もない音なので、そこはそれ、まだ青い部分も耳につく。
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例えば試聴用に持参したオーマンディ指揮フィラデルフィア響のSWEDISH RHAPSODYでは、バイオリンパートの高域に残るぎこちなさに、ルソーの世界から意識が引き戻される。
バーンスタイン指揮ニューヨークフィルのチャイコフスキー「悲愴」第3楽章でも、そのダイナミックなオーケストレーションには目を見張るものの、高域の柔軟さがあればその夢見心地が続くのに、と思わずにはいられない。

そんな風にぼうっと聞いている僕の傍らで、実質的なプロデューサーである李さんが初段の真空管を変えたり、直置きのプリアンプシャーシの下にゴム足をあてがったり、なにやかやとテストを続けている。

そんな風にして小1時間経った頃、ラインアンプ部の出力管をVALVOのCaからSIEMENSが1920年代に製造したCaに変えた頃、決定的な変化が訪れた。

滑らかな樹液が木肌を潤わせるように、ふくよかさと柔軟さが付与され、ルソー的濃密さを誇りながらどこか欠落した世界が、急に触手を広げて欠落した部分を被い、完全な「輪」を完成させたのだ。

それは今まで経験の無い、全く新しい世界。4Bの濃さで描いた細密画が蔦や樹木のように繁茂する独特なジャングル。

その中低域の濃さと、しなやかな高域に身を委ね、しばし幸せな時間を過ごす。

キムさん、李さん、そして僕の賞賛に、ムンさんの顔が誇らしさに輝く。

オイストラフのベートーベン/バイオリンコンツェルトをCDをアナログで聴き比べてみるが、一聴にしてアナログに軍配が上がる。まるでリズムを遅くしたかのように、たゆとうように美しい音を紡いで行く。この音の前には、ついこの間まで賛辞を惜しまなかったブルメスターのCDプレイヤーの音も形無しである。

シャーシの上に建ったミニチュアのビルのようなウェスタン製カップリングコンデンサーとバイパスコンデンサー群やWE178出力トランス、ノグチのLCRファインメットトランスたち、そしてBo, Ca, WE101Fを始めとする、李さんが厳選し集めてくれた部品達がこの音を紡いでいるのだ。

そしてもちろん、ビルダーであるムンさんの腕がものを言っている。(とはいえ、さしものムンさんも今回のプリ製作には苦労したようだ。彼のキャリアも飾る歴史的な作品になるだろう、という李さんの言葉には頷ける)
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プロデューサーの李さん、監督のムンさん、ささやかなスポンサーの僕の共同作品はこうして進水式をすませた。

あとはムンさんによる細部の調整の末、23日には釜山のビンテージマニア達の試聴会を迎えることになる。

韓国は18日から5日間、秋夕(チュソク)という旧盆休みに入るのだが、その休み明け、このド級フォノイコ付きプリの音が、きっと彼らの度肝を抜く事だろう。いまから楽しみである。
by windypapa | 2013-09-15 23:40 | オーディオ | Comments(0)

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