2012年 03月 25日
鷲は舞い降りた
友人や恋人達の集うカフェで独りコーヒーをすすりながら入り口に目を配っていると、やがて店の階段を登ってきた大柄な男と目が合った。
私の視線に気付いた男は前の席に座ると、挨拶もそこそこに大きな紙袋から気泡緩衝シートにくるまれた塊2つを取り出し、おもむろに封を解くと、テーブルの上に銀色に光る金属製の直方体2つが現れた。
あきらかに場違いな取引が始まる気配に周囲の空気が変わり始めるが、ものともせず男は特殊なケーブルで両者を接続して使用方法を説明し始める。
わたしは男の説明に耳を傾けながら、ついに手に入れる最終兵器の姿を目で楽しんでいた。そう、この金属の箱には名前がある。
ルビジウムクロックという名が。
デジタルジッターとの戦いに終止符を打つ可能性を秘めた驚異の箱なのだ。
というわけで今日は出来損ないのハヤカワミステリ風。
先々週の金曜日、音の匠O氏に製作を依頼していたルビジウムクロックを引き取ったときのお話だ。
こいつの威力は湯島のスタジオで散々耳に染込んでいる。
もっと早く手に入れて然るべきものだったが、そこはそれ、ない袖は触れないってやつ。
つい先頃までCEC DA53で夜露ならぬDA変換をしのいできたこの身なのさ。
それがなんと、O氏DACを導入してパイルドライバーを喰らったかのような電撃を受け、ルビ製作も請け負うという有り難い申し出に矢も楯もたまらず、一時帰国の日程に会わせて誂えてもらった次第。
無理を聞いていただいた音の匠O氏にあらためて感謝。
さて一時帰国で1週間空けたりでWE271Aシングルアンプのエージングはなかなか進まない。
音の印象は「太くけぶる」「空間表現」「表現の深み」「演奏者の気配」などの言葉で表される方向で好ましいのだが、時折一部のソースで現れる「歪み」が気になり、どうも落ち着かない。
アンプのせいなのか、SPのせいなのか、なかなか絞り込めないでいた。
音が落ち着くまではルビジウムクロックを入れても評価が定まりにくいので、せっかくの新兵器もライン投入を見合わせていた。
さらに1週間のエージングを経て、李さんと金さんが様子を見に(聞きに)来てくれた。
耳はいいけど口は辛辣な?金さんのコメントは、厳しいものになると思っていたが、「いや、このアンプの音はいい。(オンボロ)SPを差し引いても、組み上がったばかりでこれだけの音が出るとは思っていなかった。」と予想外の甘口。
コルトレーン&ハートマンに、フィリッパフォルダーノに、ギルシャハムのシューベルトに、手放しの賛辞をいただいた。
しかしおおたか静流の草原情歌の胡弓?が空間を飛び交うシーンで「ん?」と耳をとめ、私の顔を見る。
ばれたか。そう、歪みが出たのだ。
李さんを通じて歪みの悩みを伝えていたので、むしろ本第に入れて良かったのだが。
右chから聞こえるのでSPを左右交換したり、プリ出力の左右を交換したりして、結局右chパワーアンプのカップリングコンデンサの「バンブルビー」がリークしているのであろうという推論に行き着いた。
え?この時代のコンデンサは劣化しないって言っていたのに?と李さんに聞くわたし。
李さんいわく、9割は劣化し残りの1割は大丈夫です。
なーんだ、そういうことなのね。と納得。そりゃそうだ。
結局近いうちにムンさんの工房から部品を取り寄せて交換してみましょうということに。
問題が一つ整理され、気が大きくなったわたしが最後に一つ実験を提案する。昨夜から暖機しておいたルビジウムクロックを、二人の立ち会いのもとで接続してみようというのだ。
さてどうなりますやら・・・