時を経て残るもの

時間と共に風化するもの(癒えるもの)
勝利 敗北 優越 屈辱 怒り 成功 失敗 獲得 喪失


この1ヶ月、引篭もっていたわけではない。旧正月を利用して日本に帰り、母の傘寿を祝い、愛犬を供養し、釜山に一緒についてきた三男と焼酎を酌み交わし、豚焼肉・牛焼肉を喰らい、参鶏湯で体を温め、蒸し蟹を競って食した。韓国の友人とヴィンテージオーディオマニアのお宅を訪問した。零下4℃の冷え込みの中、文化会館に足を運び、Borromeo String Quartetが奏でる楽聖のラズモフスキ-とシューベルトの「死と処女」に耳を傾けた。また別の友人と閉館時間前の博物館を訪れ、青磁を愛で、ゆっくりと語らった。愛犬の喪失だけでなく、いろいろと気持ちに波が立ち落ち着かぬ1ヶ月であったが、波立たせていたものがようやく大きなうねりの中に沈み、おだやかな平穏が体を包み込み始めている。
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いくつかの出来事をスナップショットと共に記しておこう。

1.東菜のEMT927
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1月14日、釜山のオーディオマニア探訪。チングの李さんに連れられてハンさんのテラスハウス訪問。
当日は愛犬が荼毘に付される日。風邪と喪失感で頭の中がゲル状態で、何もする気が起こらず、直前まで約束を反故にしようと思っていたが、李さんに借りていたプリを返す約束もあり、翻意する。そもそも愛犬の喪失感、という心情は韓国の男性には理解の外なので、約束をキャンセルする理由にならないことも、これあり。
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ハンさんは釜山市内、東菜(トンネ)在住の、齢60半ばの物腰柔らかなオーディオマニア。約10畳の部屋にご覧の通りの大型SP(クラングフィルムを新藤製の箱に入れたもの)とEMT927始めとする大型機器・トランス類をずらりと並べ、オペラなどクラシックを中心に聴かれている。
しかし韓国のオーディオマニアは、なぜか昭和30年~40年頃の日本人歌手のヴィニールを蒐集する決まり?があるようで、李さんに負けず、ハンさんも昭和歌謡に造詣が深いようだ。
愛犬が荼毘に付される午後3時過ぎ、映画だったらMozartかFaureのRequiemが流れるところだが、そのときEMT927の上で回っていたのは都はるみだった。
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ハンさんはCDを聞かない。4,000枚のヴィニール城の主だ。以前はインフィニティの巨大SPをAudio Researchのプリ、Jeff Rowlandのパワーで駆動するハイエンダーであった。当時のアナログプレイヤーはTHORENS PRESTIGEで、大型機材を好まれるところは変わっていない。どうしてビンテージ機材に換えたのかを尋ねると、「もっと良い音にしたかったから」とのこと。隣で李さんが誇らしげに微笑む。
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音は想像通り、中域の充実した骨太の音。しかしカートをOrtofonからEMTに換えると、クリアさと緻密さが加わり、僕好みの方向へシフトする。聞けばEMTのカートにVan Den Halのチップをマウントしたもの(Re-chipではなく最初からOrderしたもの)だそうだ。EMTカートの場合はEMTのイコライザーを通して再生(Ortofonは新藤プリのイコライザー使用)するので、単純にカートの差だけではないが、これはなかなか見事である。
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ハンさん、近々息子たちの住む太田(デジョン)へ転居予定で、家賃の高い彼の地へは現行システムを持っていくことは難しいので売却を考えている由。ううむ、ここまで育てたシステムをばっさり切り替えることが出来るのか?

夕刻、奥様も帰ってこられたので李さんと一緒に辞する。

2.Killer Queen
東菜のハンさんを訪問した日、李さんから預かったのがこれ。
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李さんの僕に対する真空管洗脳作戦で送り込まれた2番手のエージェントだ。定電圧放電管VR105の青紫色に光るリングが美しい。
使用真空管は、整流管AZ1(Valvo & TELEFUNKEN)、定電圧放電管RCA VR105、初段MAZDA ACHL、FINAL WE272A(刻印&プリント)*カッコ内はリザーブ球と使用球のブランドが違う場合の双方表示
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李さんは愛娘を送り込む前に入念な調整を施した。李さんの太くおおらかな音から、太くてもワイドレンジでシャープな僕の好みへバイアス再調整でチューニングし、アッテネーターもab型からa型に変更したという。
ハンさん訪問前に李さん宅でアッテネーターの変更作業に立ち会ったが、実際そんなことで音に影響があるとは思っていなかった。李さんが手持ちのアッテネーターの中から選んだお勧めのa型を既存のものと変えてみると、「ほう、なるほど」と体を乗り出すほどの変わりよう。一聴、滑らかで聞き易い。(注:正しくはポテンショメーターでした)
ラインプリというのにずっしりと重いのは、スプラグなど部品にも「いにしえ」の品を揃えたから、ということで、開腹して裏から見ると、ペーパーコンやらなにやら、やたら大きな部品が一杯に詰まっている。
今まで借りていたプリVEB Tonmechanik Berlinを気に入っていたので、交換することに乗り気ではなかったのだが、「同じ真空管でもMTとSTではまるで音が違うし、WEとテレフンケンでもまったく違う傾向だ」と李さんの力説に「じゃあ試してみましょう」と応じたまでだ。(どちらも李さんの所有物だから、そもそも交換に乗り気も何もないのだが・・・)
とにもかくにも自分のアパートに帰り、オガワ式DACとKRK VTX4に接続して音を出す。

これは・・・この臨場感と空気感はなんだ。古い真空管アンプの「ピントの緩んだ中域重視の音」という先入観があっさりと消し飛ぶ。どこまでも美しく伸びていく、しかも力強い音は、ずっと聞いていたいほど耳に心地よい。このケチな簡易システムでこのような音が出てこようとは!

いままでオーディオではっきりと音の進化を感じたのは3回ある。①Mark Levinson ML-1導入 ②Goldmund Studio導入 ③AET SIN/EVO SPケーブル試聴 のそれぞれの時だが、再び更新のときがやってきた。

予兆はあった。今年オガワDACを導入したことでそれまでの音が「がたがた」と崩れ去り、新しくスムースでワイドでリアルな質感が顔を出していたのだ。しかしそれを充分聞き定める時間が無いうちに大事なものを失い、心の均衡を失っていた。そういう意味で、これはオガワ式DACとダブルチームでのイノベーションというべきかもしれない。

世の中、悪いことばかりではないかもしれない。



時を経ても心の中に残るもの
友情 信頼 愛 音楽
Commented by god-zi-lla at 2012-02-07 10:13
記事の本筋と無関係なコメントで申し訳ないのですが、息子さんと酒を酌み交わせるお父さんが羨ましい。

わが豚児は父親と図体に似合わぬ下戸で、少しさびしいのです。
Commented by windypapa at 2012-02-07 19:35 x
god-zi-llaさん、こんばんは。ウチは3匹の子豚でしたが、もはやデカイ面してのし歩いています。なかでもヤサオトコ風の三男が一番いける口で、マッコリから焼酎から気に入って付き合ってくれました。さては飲んべえの義父の血をひいたなと感心しています。
おかげで随分気持ちを和らげてもらいました。
god-zi-llaさんは酒飲みのお仲間に恵まれているご様子、ここは我慢して孫の代まで待つっていうのはいかがでしょうか?(笑
by windypapa | 2012-02-06 20:51 | オーディオ | Comments(2)

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