書き残し拾遺集

先週から今週にかけて書き残していたものを拾い集めて記す。

月曜日(17日)郵便局で国際送金の取り消し。前週末に海外サイトで購入し、国際送金した取引が限りなく詐欺の可能性が高いことに気がついて取り消したもの。
気の利いたことをやるつもりで危ない橋を渡る、幼稚で馬鹿気た行動を反省。

火曜日(18日)、サントリーホールで読売日本交響楽団の演奏に接する。
指揮:小林研一郎
ヴァイオリン:キム・ボムソリ
曲目
ビゼー:オペラ『カルメン』組曲より
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 Op.26
フランク:交響曲 ニ短調
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 第3楽章(ヴァイオリン・アンコール)
マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲

コバケンは一昨年8月に日フィルを振った「幻想」以来の鑑賞。(@ミューザ川崎)

座席は前から3番目、中央左側の席。コバケンはじめ前面の奏者の表情が良く見える席だが、管楽器、打楽器の奏者は陰に隠れてしまって見ることができない。
コバケンはミューザの日フィル同様、割と「ざっくりした」(ように見える)感じの指揮で、オケも「総論コバケン、各部は奏者一任」みたいな形で応えるように見える。
だからかどうか、個々はプロフェッショナルな演奏なれど、精緻なアンサンブルとか、ピアニシモの緊張感とかとは少し遠い。
その一方で演奏の「ツボ」は心得たもので、強奏部はぐっと盛り上がり、オケがダイナミックに歌うのが見事ではある。
ただそういうところが、ある意味相撲でいう「強引な上手投げ」的な粗さも見えてしまい、少し残念である。
ああ、いけない。また門外漢が分かった風なことを書き連ねて・・・m(__)m

さてヴァイオリンのキム・ボムソリ女史、ステージに登場するだけで回りをパッと明るくする若さと華やかさ。ブルッフのコンツェルトも低く美しく歌うところは低く、強く歌うところは強く印象的な演奏を聴かせてくれた。(躍動的な第3楽章では、彼女の小柄な体が3回ステージの上で跳ねるのを見た!)
オケと「丁々発止、火花を散らして」という演奏ではなく、コバケンの、よく包み込んで孫娘をリードするような指揮に、うまく反応して聴かせてくれたという演奏と言ったら怒られるだろうか?

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しかしアンコールのイザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 第3楽章では一転、目にスイッチが入り、火花が散るような切れ味の良い演奏を聴かせてくれた。
キム・ボンソリ、やるじゃないか。

フランクの交響曲、第2楽章の冒頭、見事なイングリッシュホルン。後を引き取ったオケの甘く美しい旋律に目を閉じる。が、上述したようにアンサンブルで聴かせるにはやや冗長になるのは否めず。一転第3楽章はオケがツボにはまってうねり出し、堂々のフィニッシュ。豪快な上手投げで終わる。(笑)

アンコールは日フィルの時と同様、カバレリア・ルスティカーナ間奏曲。こちらはよく錬成されているようで、指揮者の思いがオケの隅々まで行き渡っている。

会場には原発政策に反旗を翻す元首相の姿も。よき哉。

水曜日(19日)カズオ・イシグロ「Never Let Me Go」読了
先回の「忘れられた巨人」に続き、今さらカズオ・イシグロを訪ねる私的な旅の第2作。このラストには圧倒された。電車の中で溢れる感情を抑えるのに苦労した。
静謐で抑えた語り口は「巨人」と同様だが、奇抜な設定を様々な小さなエピソードを積み重ねて登場人物と読者の距離を縮め、感情を共有させ、途中からほぼ展開が読める中で、圧倒的なラストに持って行く手腕に畏れ入る。
次は何を読もうかな。

木曜日(20日)
舌の根も乾かぬうちにまたもや海外販売サイトで見つけた商品に購入を申し込む。私にとっては少なくない金額。(・_・;) 今回はpaypalで予防線を張ったつもりだが、果たして・・・?
うう~、どきどきする。

日曜日(23日)
午後、Oさん宅でオフ会。かねてお願いしていたファインメットトランスとESS9018DACの組合せ試聴会。
1.DAC基板から直出しした出力を繋ぎ、トランスで差動合成 巻き数比1:1で増幅無し
2.DAC基板から直出し出力、トランスで差動合成、巻線比1:2(+6db)増幅
3.DAC基板からの出力を、一度FET1発でトランジスタIV段を入れ、その出力をトランスに入れて差動合成。巻線比1:2で出力 +6db増幅
4.DAC基板からの出力を、一度FET1発でトランジスタIV段を入れ、その出力をトランスに入れて差動合成。巻線比1:1で出力 増幅なし

というパターンで試聴させてもらう。と言っても、それぞれいちいち基板からの接続を外し、コネクターを入替えて接続するという技術と根気のいる仕事。製作者のOさんにしか頼めない試聴である。
おかげで踏ん切りがつき、感謝、感謝。
その後はDAC試聴にお付き合いくださったもう一人のOさん―ややこしいな、主催のOさんをO1、ビジターOさんをO2と呼ばせてもらおう―も含めてCD名盤を試聴。CD初期の名盤の見分け方など、貴重な情報を聞かせていただく。

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それにしてもこのO1,O2さんの古典音楽に対する造詣の深さには畏れ入る。チコちゃんじゃないが、ボーッと生きて来た我が身を縮こませて蘊蓄に耳を傾ける。
よし、次回欧州に行くときは中古CDショップを巡ることにしよう。(笑)

併せてO1さんの、DACチップを使わずにディスクリート回路で組んだ現行DACを聴かせていただく。
先の試聴で聴いたESS9018と比べて、電源を入れた当初は飾り気のない、あっさりしたと言ってもよい音が、温まるにしたがって、より本質的な、付帯音の少ない音で鳴り始めてその実力を窺い知った。やるもんだなあ。

強力電源で駆動するラズパイの音なども堪能した後、近くの台湾料理屋で反省会。これが楽しい。(笑)

さて今週は、いかなる展開が待っているのやら。

# by windypapa | 2019-06-26 14:15 | music | Comments(0)

週末にCDを削る?

先週末土曜日は久しぶりに大阪で昔の職場の同窓会。この歳で永久幹事ということからも、平均年齢の高さが知れる。(笑) 最高齢の82歳の方を筆頭に皆矍鑠とされており、一安心。
会場はオフィス街の昔ながらの割烹だが、昼の会席は手ごろな値段で楽しめる。

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隣の某総合商社のビルは今は主が変わっていたが、ご近所の適塾は変わらずに趣を伝えている。

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同窓会に早く着きすぎたので、大川沿いのカフェで時間を調整。この界隈も再開発で眺めがよくなり、川沿いのお店は皆テラス席を作って洗練された造りになっている。
大阪は雀まで人懐こいようで、食べかすを求めて平気でヒトの前までやってくる。


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旧交を温め、来年の幹事を引き受けて(・_・;)帰宅した。しかたない。爺様たちの我儘には逆らえぬ。(笑)

日曜の午前中は、週末に届いたガジェットを取り出して遊ぶ。


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CDサウンド・アップグレ-ダー GLASS CD-SI75という、「CDディスクのエッジを斜めに削りディスク内部での光の乱反射を抑え音質を向上させるCDエッジ・カッティングマシーン」である。なんのこっちゃよくわからんが、中古が安く出ていたので、面白半分に求めてみた。
ちいさなものを想像していたのに思いの外大きくて驚いた。
こういう怪しげなものにはふつう近寄らないことにしているのだが、ドイツ製でEsotericが代理店というのが尤もらしくて、ついついいたずら心が働いた。(^^ゞ

中央のターンテーブルにCDを載せて、上からクランパーで押さえ、モーターでターンテーブルを回しながら、手前の治具でエッジを削るというもの。

やってみると古典的な工作をやっているようで面白い。

こんな感じで削りかすが出る。

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仕上げは削ったところを専用のフェルトペンで塗っておしまい。


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10枚ほど加工してごく短い試聴をしてから所用で出掛けたが、プラシーボもあるのか、試聴では音の鮮度が上がったような気がした。
「音が悪い」と感じているCDには特に効くというので、今度はそういう盤を選んで聞いてみよう。
しかし、準備を含めて作業に手間がかかるので、加工前/加工後の比較試聴はやりにくいのが難点だ。記憶力と耳の悪さが恨めしい。

さてその日の午後は、さるお宅でのオフ会であったが、その話はまた別の機会に。

# by windypapa | 2019-06-25 15:32 | 日々是好日 | Comments(0)

STUDIOのこころがわり

二晩経ってもプレトニョフが脳に沁み込んだままだ。 厄介だなあ。

昨夜はアンドラーシュ・シフの弾くベートーヴェン ピアノソナタ 31番第3楽章と、32番をCDで確認してみた。

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シフらしい、伸びやかでブリリアントなピアニズム。晴れ渡る蒼穹のような清々しさ。やっぱりいいなあ。
だけど、なにか心に引っかかる。   メランコリーがない。翳がない。
聴覚の衰え、体調不良、カールの後見問題、等で神経をすり減らしながら作曲した作品が、青空ばかりであるはずがない・・・ってそんなことを言いたいのか?

いや違う。

上手く言えないが、「ピアノという楽器を使った表現の方程式を変えようとしている」演奏を聴き、それが未消化のまま頭にいつまでも残っている、そんなことなのだろう。

これじゃあ、一体何を言っているかわからないよね。
この話はこれでおしまい。

さて、WE271Aシングルアンプのノイズ問題。

しばらく前から、右chからでるカサコソいうノイズが気になって、真空管を挿し替えてみたり、真空管ソケットのバネを調整したり、接点を磨いたりしてみたのだけれど、治らない。
いろいろネット上で調べると、カップリングコンデンサーやバイパスコンデンサーの劣化も原因として考えられるとある。アンプの中を開けるのはいつも気が進まないのだが、ここはひとつ、腰を据えて取りかかろう。(笑)

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初段WE102Fとドライバー段101FのCR周りは上の写真のようになっている。水色の矢印がバイパスコンデンサーで、CORNELL社の極性付オイルコンデンサーが使用されている。
オレンジの矢印がカップリングコンデンサーでMarantz7にも使われたバンブルビーである。
どちらも李さんが苦労して集めたビンテージパーツだが、ヴィンテージであるがゆえにここからメスを入れねばならない。
それぞれのはんだ付けを外してテスターで容量を測定すると、意外や皆表示通りの容量を保っている。(バンブルビーは0.1μF±誤差)
おかしいなあ。
それでも一度交換してみよう。・・と手持ちのパーツをあたるも50MFDの極性付コンデンサーがない。
ネットを検索すると、幸い町田駅の駅近にサトー電機というパーツショップがあり、そこで50V47μFの電解コンデンサー「ミューズ」を4個購入する。1個49円。安い!
サトー電機にはほかにもシャーシや真空管、抵抗、SW・コネクター類など一通りのパーツが揃っており、「取敢えず」要りようになった部品を秋葉原にも出向かず密林を探索する必要もなく入手できるので便利である。ウレシイ。

さて、ミューズと手持ちのものを使って交換したのが下の写真である。

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上の水色矢印がミューズ。オレンジは手持ちのフィルムコンデンサー0.1μF、下も手持ちの100V100μFだ。

シングルパワーアンプは複雑じゃないので、作業自体は簡単だ。

裏蓋を閉めてシステムに戻して電源を入れてみる。・・・・・・・・・おお!カサコソノイズが消えた! アンプが暖まっても、ノイズは聞こえてこないぞ。
やったあ。めでたしめでたし。・・・と書くといかにも簡単だが、ここに至るまでが長かったのよ、ホント。
後日Oさんに報告すると、「それはカップリングのDC漏れ」だったそうだ。容量が減っていなくても、劣化してDC電流を一部通すようになるとそういう症状になるとのこと。なーるほど。

これで背景音の静寂追及プロジェクトは、ほぼ最終段階に達したな。
ひとつだけ、試してみたい最終兵器があるのだけど、電気技師免許が必要なので、手控えている。ううむ。

さらにこんなガジェットが到着した。

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TRITON AUDIOはオランダ北部の小さな街、アルクマールに拠点を置くガレージメーカーで、NeoLevはその非接点浮遊型インシュレーター。内部にネオジウム磁石を内蔵し、その反発力を利用してSP等の振動に敏感な機器を浮遊させる仕組み。インシュレーター1個あたりの耐荷重は8㎏だそうな。

前から一度試してみたかった、磁気フローティング。早速C.E.C TL-3N 3.0の脚の下に付けてみる。音はというと、中域がよりフォーカスが高まったが、高域はなんていうか、ヒリヒリする感じがしないでもない。うーん、ちょっと馴染めない音だなあ、とプリアンプML-1の下に履かせてみる。
これも一瞬、良くなった感もあったが、冷静に聴くと別に変わりはない感じ。
気が進まないけどTHORENSの脚に噛ましてみるか!と簡単に言うけどこれは大仕事だ。重量級でしかも肩より上の位置にあるTHORENS TD124のPlinthをせーので持ち上げ、一つずつこのインシュレーターを嵌めていく。何が大変かって、磁力の反発力で、写真左側の駒が右の駒からすぐに飛び出してしまうこと。(左側の駒には磁力を帯びた軸がついていて、右側の同じ磁力を帯びた穴に嵌めて浮かすという仕組み)
やっと4脚嵌めていざ試聴するも、うーむ、あんまり代わり映えしないんじゃないか?との感想がでる。むしろ脚が下駄履きになって、見ていて安定感がなく怖い。
早々に撤去する。

さてこうなると残るはGOLDMUND STUDIOだが、もともとターンテーブルボードはスプリングで支えるトランポリン構造ゆえに、磁力フローティングの効き目は薄かろう、というのが順当な予想。

それでもやってみなけりゃわからないのがオーディオと自らに活を入れ、えいやと重量Plinthを持ち上げる。
前脚を持ち上げた途端、リニアトラッキングアームがツーッとスピンドルに向けて走り出して冷や汗が噴出したが、すんでで悲劇は回避。(◎_◎;)
SKALAに針先ガードを装着して、あらためて慎重にインシュレーターを取りつける。

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こうしてみると、やはり下駄を履き安定感が悪いが、ともかく試聴してみよう。

こいつは・・・・悪くない。いや、悪くないどころか、いいじゃないか!

いままで優れた分解能と正確なトレース能力で、CDと見まごうような再生を聴かせてくれていたGOLDMUND STUDIO、一方で"ICE DOLL"のように冷静で温度感にかけるところがあり、長時間聴くと退屈になってしまったのが、今や暖かな温もりをたたえてこちらに寄り添ってくるではないか!

鋭利に尖った筆先の4Hの鉛筆が、筆先はそのまま、4Bの濃さで音楽を奏でるような。

細密なエッチングが、色彩豊かな絵画にするりと衣装を変えたかのように。

もう止まらない。つぎからつぎへとヴィニルを載せていく。

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回れ、舞え、STUDIOよ。
いままでの隙間を埋めようではないか。


# by windypapa | 2019-06-18 16:46 | Comments(0)

プレトニョフのトリルに見た幻覚

スタンドカラー付きの長袖のシャツと、同じ光沢を持つゆったりしたシルエットのパンツ、上下黒の一見高級中華料理店の主のようないでたちで舞台に現れた男は、白髪を七三にわけ、なだらかな曲線を描くなで肩のうえに、小柄で柔和な顔を乗せ、しかし額の下の奥に引っ込んだ眼は別物のように、底知れぬ不思議な光を帯びている。
演奏者としてありがちな、客席へのなにがしかの秋波を送ることもなく、舞台下手からすたすたとまっすぐに椅子に向かい、座るや否や、(座面の高さや位置を気にするそぶりを露ほども見せずに)、Mozart Piano Sonata No.4 in E-Flat Major, K282第1楽章冒頭の和音を無造作に鳴らしたのだ。
「無造作」という言葉に異論があるかもしれないが、それはこちらが構えに入る前にスッと一瞬のうちに懐に入り一撃を与える居合の達人のような絶妙の間合いでもあり、客席の聴衆は皆虚を突かれたようにモーツアルトの、というよりむしろ、奏者であるプレトニョフの「世界」に引き込まれたのだ。

6月16日(日)の昼下がり、青葉台フィリアホールにおけるMIKHAIL PLETNEVのピアノ・リサイタルはこうして幕を開けた。

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僕がプレトニョフを知ったのは、Oさんの試聴盤であるアルゲリッチとプレトニョフの「シンデレラ」によってであり、この一つ違い(なんだってプレトニョフはこんなに老けているんだ?)の鬼才がアルゲリッチを相手に繰り広げるピアノ・バトルに圧倒され、頭の中に思い描いていた「派手なパフォーマンスのピアニズム」を観に(聴きに)座席に着いたのだ。
僕の入手した座席は2回のRのはじめの方で、コンサート・ピアノを挟んでプレトニョフと正対するような位置で、上からピアノと奏者を見下ろすような視線で鑑賞することになった。
ピアノの前框に隠れてプレトニョフの手は見えないが、彼の表情やピアノの内部、弦やダンパー、下からあがってくるハンマーの動きなどは見ることができるので、彼の見えない指がどのように動いているのか、手に取るようによくわかる。
小さなホールで、奏者がほんの10メートルくらい先で演奏しているという状況が、聴衆側にもしわぶきや物音を立ててはならないという緊張をもたらし、息を殺すように聴いていたが、肝心の演奏者がまるで力を入れずに見事な脱力でモーツアルトを弾き飛ばしていくので、第2楽章くらいからはこちらも適度にリラックスして鑑賞する体制に移ることができた。(笑)
「はい、モーツアルトの4番ね。指慣らしがわりに弾いてみたんだけどどう?」弾き終わったプレトニョフがこう言っても、なんの違和感もないほど、淡々と、しかしプレトニョフの色を強く感じさせる形で演奏が繰り広げられた。
僕はと言えば、美しいモーツアルトの旋律をバックに、黄金色の塗装の中で踊るハンマーとダンパーの舞に見惚れている始末。このアングルから鑑賞するのは初めてだが、実に面白い。

しかし、次のBeethoven Piano Sonata No.31 in A-flat Major, op.110の演奏に取りかかるときは、すこし様子が違った。何かを思い出すように小さな目を瞑って一拍呼吸を整えてから、徐に鍵盤に指を下したのだ。
モーツアルトでは明るく瑞々しい音色が淀みなく耳に入って来たのに、Beethovenの31番では一転、抒情的で愁いを帯びた帳に包まれる。彼の左手の奏でる低域がくぐもった響きで独特の情感を醸し出す一方で、右手の奏でる音は玉のように瑞々しく、冴えた光を与えてくれる。
モーツアルトの演奏と一転して独特の雰囲気を放ちだしたピアノの音響に、不思議な思いにとらわれながら惹きつけられる。
そうしてみていると、プレトニョフの右足が、ペダルの上を忙しく行き来しているのが目に入った。
どうやらこの低音弦の幻想的でくぐもったような響き、雲の切れ間から射す月光のように冴える高音域の音色、その他この不思議な情感は、フィンガーワークだけではなくペダルワークによるものだということが徐々に理解できてきた。
いわゆるクラシック通の方たちは、こんな感想を書くと「何を今さらトーシロが」と嗤うだろうが、ここは素直に書くしかない。(^^ゞ
おお、これは2階右側のピアノ内部構造丸見え席に陣取った甲斐があるものだと、一人悦に入るのだ。
第2楽章では力強く明確な演奏が続き一時複雑なペダルワークから遠ざかるが、第2楽章の終わりから第3楽章にかけては再びペダルワークの妖術が冴えわたり、「幻想的」ともいえる曲想に引き込まれていくのだ。

予想を覆し、派手さもこれ見よがしのテクニックをひけらかすこともないが、鍵盤楽器であるピアノの表現手段を繰り出して「ちょっと聞いたことのない不思議な音色の世界」に聴衆を引き込んでしまう、妖術使いのようなピアニストなのである。

ブレークの後、再びモーツアルトのプログラムから。ピアノ・ソナタ10番K.330。これも下手からすたすたと歩いてきたプレトニョフは座席に腰がつくかつかないかのうちに第1音を鳴らすという自然体。もはや意表を突かれたとは言えないが、またしても懐をえぐられたような「快感」。
こちらは演奏時間も長く、「指慣らし」以上の思い入れあるいはプレトニョフの持つモーツアルトへのレスペクトを感じさせるものではあったが、仙人がモーツアルトを弾いたらこうなるかも、と思わせるものもある。(笑)

プレトニョフがアペリティフがわりにMozartを配していることを個人的に確信しつつ、プログラムはいよいよ最終曲、Beethoven Piano Sonata No.32 op.111を迎える。

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ここでもピアノの前でほんのひとときの「瞑想」の後、プレトニョフは鍵盤に指を下した。ここで「レコード芸術」の記事のような演奏評を書くつもりも用意もない。僕が2階席から黄金色に輝くShigeru Kawaiのコンサートピアノの「内臓」で躍動するダンパーやハンマーの動きと、そして少しもせわしそうな素振りを見せずに淡々とペダルを行き来するプレトニョフの右足を眺めながら包まれていったのは、またもや「浮世離れした」独特のピアニズムの世界であった。「ベートーヴェンの到達した至高の精神性」とか崇高な言葉で装飾するのはここでは脇に置き、特に第2楽章中盤からのメロディーの連鎖、トリルの連続が次第に頭の中で渦を巻き、いつしかキース・ジャレットのソロピアノを聴いているような幻覚を覚えたのだ。
ううむ、どうかしてる。
と思って帰宅後ググると、32番とJAZZを結び付けてのコメントがいくつもヒットするので、なるほど完全にどうかしていたわけではないかと安心した次第。(笑)

音色といい、立ち居振る舞いといい、圧倒的な存在感を示したプレトニョフ。アンコールはスカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9/L.413で締めくくった。

うーむ、これは記憶に残るリサイタルであった。まったく。なんて奴だ。


# by windypapa | 2019-06-17 16:49 | music | Comments(0)

ヴィニルはヴィニルを呼ぶ

ガツンッと激しい衝撃。
右側頭部に激痛が走り、目の前に火花が散った。
手をこめかみにあてて腰を折る。キーンという鋭い痛みが、ズキズキという断続的な痛みに変わる。
ああ、これはこめかみが内出血してぷっくりと腫れるな。そう思ったが掌の下の患部は腫れてこない。
心配してのぞき込む衝突相手とチームメイトに、大丈夫大丈夫と片手で合図して、練習を続けるが、疼痛は治まらずむしろ次第に大きくなる。
フラッグフットボールのディフェンスの練習で、パスキャッチしたレシーバーに詰めたところ、バランスを崩したレシーバーが頭から前のめりに倒れ込み、僕のこめかみに衝突したというわけだ。
久しぶりに受けたフィジカルな衝撃。
瘤ができないので、頭蓋骨の内側で出血していたらどうしようかと不安がよぎる。
今読んでいるチャンドラー「水底の女」(村上春樹訳)ではマーロウがベイシティの警官その他に小突き回され悪態をつくシーンがあるが、彼の気持ちが少しわかるような一撃だ。(笑)
やれやれ、これで帰りの電車で昏倒したらシャレにならんなあ。と自重しながら帰宅。
幸い一晩経つと疼痛も薄れ、月曜から休みを取ることもなく出社した。(笑)

この週末はこのようにフラッグフットボールの練習に出掛けたり、本を読んだりして過ごしたり、ヴィニルレコードの整理に精を出した。

レコード整理は、以前ヴィニルを譲り受けた会社の先輩の、こんどはそのご友人から段ボール箱二箱のレコードが届いたのがきっかけだった。聞くところによると、そのご友人が親戚の方から預かったもので、その方の父上である元外務大臣のコレクションの一部だそうな。といっても政党に属す政治家ではなく、民間人として閣僚を務めた方。
開梱してざっと眺めてみると、欧米プレスが主で、中にはハンガリー盤やどこの国の文字かわからない(^^ゞ盤も含まれている。

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ヴィニル・コレクションはその保有者の人格・人生を物語るものであるというのが何人かのそれを引き継いだ僕の感想だが、今回のコレクションもその例に漏れないようだ。
名前を聞けば50台以上の方は知らない人はいない方の持ち物を縁あって預かるとなれば、段ボール箱のままで積んでおくわけにもいくまい。

ところが我が家のヴィニル収納は限界にきており、リスニングルームの収納棚をはみ出し、地下の廊下に置いた収納ラックもはや一杯だ。それならばと不要物斡旋サイトでラック/本棚を探すと、レコード棚の出物がヒット。10㎝くらいの間隔で縦に仕切り板が入るレコード収納専用棚♪で、高さは3段、幅は80㎝のものと60㎝のもの、そして横一列置きで高さ50㎝ほどのもの、3つで1セットである。木製で良い加減に年季が入っているのが好ましい。首尾よく商談が成立し、週末に搬送用のレンタカーを借りて引き取り、地下の廊下の幅が広いことを幸いに運び入れた。
家人はわずかに眉間にしわを寄せたが、段ボール箱が見苦しく積まれるよりはましと判断したようだ。(笑)
早速今回入手したヴィニルを納めたが、幅狭の方の2段分が埋まったのみである。先客のラックと併用すれば、納戸に眠るオープンリールテープもすべて整理できるだろう。
祝着ぢゃ。


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さて新着のヴィニルに早速針を下してみたいところだが、前回述べたように左chのドライバーが入院中。修理不能となったらどうしよう? ebayも含めてオークションの出物はとんでもない値付けでとても手が届かない。

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手持ち無沙汰で主の帰りを待つウッドホーン



思い悩んでいると入院先のSP工房から電話がかかり、「治せますよ~」とのこと。ふう。助かったあ。
錆でリード線が腐食して断線していたとのことで、周囲の錆除去と予防措置も含めて修理して火曜日には返送いただけるとのこと。
しかも極めて良心的なプライシングである。ほんと、助かります。m(__)m

それにしても、音楽を聴きたくても聴けないのはやるせない。だからといって納戸に眠るJBLフルレンジD130とネットワークN2400を引張りだして075との2Wayで音を出すには手間のわりに聴く時間が短すぎる。ずっしり重い38㎝ウーファーをつけたり外したりして傷でもつけたら大ごとだ。

こんな時は大人しく犬と一緒にソファに寝そべり、TVでも見ているしかないね。
うん。

# by windypapa | 2019-06-11 09:01 | オーディオ | Comments(0)

我が家のオーディオも梅雨入り

先日新宿ピカデリーに映画を見に行った時に見た、両側ビル解体で剥き出しの紀伊国屋ビルディング。あら恥ずかしや♪

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日の当たらないところは色白だったのね。(実は反対側は黒ずんでいた)

昭和39年竣工っていうと、僕より年下じゃないか(笑) しかし相当くたびれているはず。おーい、早いとこ両側から支えてやってくんな。

さて、サッカー日本代表チームにメンバーの出入りがある如く、我が家のシステムも実力第一、弱肉強食のジャングルなのである。

ここに長い間君臨してきた黒衣の魔神がひとり、フィールドを去る。

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アリゾナからはるばる40フィートトラックに揺られてシカゴにやってきて、ハポネ(僕だよ僕)に気に入られて太平洋を渡り、日出ずる国に腰を落ち着けて幾星霜、来る日も来る日もウデの悪い主人に仕えて声を絞り出し、ふたたび新たな主人のもとに向かわんと木箱の中に納まった。

思いは尽きぬが、今は袂を分かつ時。耳朶に残るお前の歌声は忘れまい。さらば魔神よ錨を上げろ。背中のLEMOが泣いている。ってなんのこっちゃ?

後を託されたのがブリテン島はハンティンドン生まれのQUAD405Ⅱ、なんだよちっとも若返っていないじゃないか(笑)

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見かけは小粒だが、叩き出す音はAwesomeこの上ないGreat Amplifier。早くもTAD TL1601aを手懐けたようだ。
力強く、かつ表現力が豊か。それがこのボンド君の特徴である。

しかしこの機に中高域をEL34PPアンプに交換試聴して気づいたのだが、この表現力、独特の陰翳感は、WE271Aシングルアンプとの絶妙のコンビネーションで生み出されるものらしい。
ボンド君もEL34PPとの相性は今一つで、躍動感や表情が損なわれてしまうのだ。

ML-3の降板劇も、単純なパワーアンプとしての力比べではなく、実はWE271Aとの相性がポイントだったのかと、合点がいった。
実のところ、中高域の信号増幅用アンプ(WE271a)の電源を落としてしまえば、聞こえてくるのはくぐもったような低域ばかりで、表現力も陰翳もあったものじゃないのだが、中高域の電源を入れると、水を得た魚のように音楽が躍動しだすのである。

そういう意味ではむしろ、ボンド君が手懐けたのはWE271a Single Ampということになる。双子のブラックビューティー。

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増幅段の見かけが小型化したので、配列を組みなおし、配線回りもすっきりさせよう。3mのQRDケーブルをいったん排して、パワーサプライPS600の電圧・周波数を調整しながら細かいレベルで残留ノイズを追い込んでいく。
うん、だいぶすっきりしてきたぞ。

こいつはいい、ご機嫌だ♪

と愉悦に浸る時間はそう長くなかった。

あれ?右chに音が寄っているぞ?

SPに耳を近づけると、左chのTL1601aウーファーは正常だが、スコーカーTD4001からは音が出ていない。コネクターが緩んでいないか確認し、左chのパワーアンプの真空管を抜き差しし、接点回復剤を塗布する。さらに内部配線を確認するが、異状は見つからない。
レヴィンソンML-1の左chのラインモジュール破損という可能性が頭をよぎり、冷や汗が出たが、パワーアンプの入力を左右替えても相変わらず右chの音が出ないので、プリの原因ではなさそうだ。Sigh of relief.

いやまてよ、するってえとTD4001が・・・? 左chのTD4001に、信号が出ていた右chのパワーアンプの出力を繋いでみる。・・・・無音。
あちゃー!  これってTD4001の故障!?

参ったなあ。と言っていても仕方ないので、ウッドホーンを外してドライバーを梱包し、JBLのときからお世話になっているエンジニアに発送する。

エンジニアの「TADは交換部品がないから、ちょっと・・・」という言葉に不安が募るが、とにかく診てもらおう。

ふう。


# by windypapa | 2019-06-06 21:35 | オーディオ | Comments(0)

最近の本と映画

1.最近読んだ本
・カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」
イシグロの著書は以前一冊、何かを読んであまり心に残らないままスルーしていたが、今回手に取ったこの本には、アーサー王伝説の残る6世紀ころの時代設定といい、旅の老夫婦が主人公という設定といい、前回読んだ本の「洗練された」舞台とは大きく異なる舞台設定に驚き、またその訥々とした語り口と、想定外のファンタジー指向に引き込まれた。
老夫婦の道行きなど、通常の力量の作家なら退屈なお話にしかならないところ、流石にイシグロの筆力は読む者の脳に古代イングランドの丘陵と草原、鬼神の宿る森を浮かび上がらせ、物語の中に誘う。竜と騎士などアーサー王伝説にかかせない道具立ても揃い、「ものがたり」の楽しさを存分に味わうことができた。
封印された記憶とそれを呼び覚ますことで生まれる復讐の怨念、新たな殺戮の予感。夫婦、親子の間の記憶まで失わせる霧の魔力と、真実を知ることで生まれる新たな葛藤(の予感)。
最終章は意外な展開で終わるが、そこが読者に考えさせ、余韻を残すテクニックだろうか。☆☆☆☆★(うひゃあ、急に☆レビューか!何様のつもり?)

・須賀敦子全集第1巻
以前第何巻を読んだか忘れてしまい(竜の発する霧のおかげか?)、読み始めたら既読の著作とわかったが、それでもこのかたの文章は心の襞にしんしんと沁み入るように哀しく、切なく、滋味深い。哀しさ、切なさは彼女の喪った大切な人達、彼らと過ごした時間、情熱、連帯という幻影、などが熾火のように発熱して発せられるのだが、それぞれの思い出を語る須賀のまなざし、語り口はやさしく、素材に対する愛おしさで溢れている。
こんな見事な日本語の語り部は今何人いるのだろうか? 熾火に手をかざし、暖を取るように読みたい一冊。 ☆☆☆☆★

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2.最近観た映画
・「神と共に」
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先月前振りした韓国映画を新宿ピカデリーにて鑑賞。
機内エンターテインメントでは画面が小さくて気がつかなかったが、冒頭のビル火災のロケ地は釜山映画祭会場の裏側、僕が住んでいた高層アパートの真下じゃないか!(アパートまで映っていた(笑))
その気で観ると、消防署も釜山消防署で、懐かしい土地が結構出てくるなあ。
とまあ個人的な思い出はともかく、映画館で観るこの映画はやはり面白い。二度見でも泣ける。(笑)
韓国俳優特有のセリフの節回しと見栄の切り方、豊かな表情とユーモア、立ち回りのキレ、スピーディーな展開、音楽の出来の良さ、などで2時間半の長尺も飽きさせることがない。
生きているうちに親孝行しなくては、とあせる気持ちになる一作(笑)☆☆☆☆★
6月の続編公開が待ち遠しい。

ちなみにこの邦題、どこか胡散臭い宗教映画と誤解されないか? 子供たちに勧めたら、胡乱げな反応を浴びてしまった。


# by windypapa | 2019-06-04 16:51 | 映画 | Comments(0)

トランプの休む街で聴くショスタコヴィッチ

いったいどうなってんだこの天気? こんな高温低湿気候、今まで経験したことあるだろうか。
まあいいや、予定通りに過ごそうじゃないか。
というわけで午前中はフラッグフットボールの練習(一応東西対抗の定期戦ということになっているけど)に参加、その後の懇親会でビールを流し込んだ結果地下鉄を新高円寺まで乗り過ごし、慌てて戻ってサントリーホールにたどり着く。
今夜はジョナサン・ノット指揮東京交響楽団の演奏で以下を味わう。
ブリテン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.15 Vn ダニエル・ホープ
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 Op.47

ホールに入り、包まれる木質感に聴覚が、気持ちが、解きほぐされ、ゆったりと気分が落ち着いて行く。
やはりこの感覚はホールに入らなければわからない。

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入手した座席が前から6列目と良い席だったこともあり、左右の広がり、オケ(ホール)の奥行感など、音響的にも期待が高まる。
その期待にたがわず、この夜の東響は第一Vn・第2Vnが左右に開く対向配置ということもあり、特にストリングスセクションの掛け合いが面白く聴くことが出来た。
実際、東響のストリングスの実力は相当なレベルとお見受けした。
いや素人の私が何の根拠でそんな大それたことを言うのかといえば、ノットのタクトのみならず表情による意思伝達を俊敏に汲み取り、それを演奏で表現する東響ストリングス諸兄の反応力、感応力に感心したからに他ならない。
いやストリングスに限った話ではなく、管楽器・打楽器のセクションもアジリティが良かったと思う。
よく指揮者が自在にオケを操る、とか表現するけど、ひょっとしたら東響・ノットもその域に近づいているのかもしれない。
以前日本のオケは個性が薄いとか言う議論があったけど、ミューザで聴いてもサントリーホールで聴いても東響トーンは雑味(濁り)がない美音で、オーディオで言えばハイエンド系の音(笑)のように感じる点、またその音を指揮者の要求に応じて自在に取り出し変化をつける技術を感じる点で、立派に個性を持っていると言えると思うのだ。
例によってよく知らないブリテンのVn. 協奏曲の出だしの第1Vnの音が気持ちよくシュウンと上空に昇華する様を聴いて、ああ今日も良い音楽に出会えるな、と悟ったのだ。


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東京交響楽団公式ツイッターより掲載


Vn.ソリストのダニエル・ホープは初めて接する演奏だったが、私が勝手にヴァイオリニストに期待する華奢さや感受性の豊かな外観とは少し違う(笑)がっちり系で髭を蓄えた男性奏者。しかしその奏でる音は意外にも?繊細で、トゲトゲしさのかけらもない。
その体格通り?懐の深い、繊細でいてどっしり落ち着いた演奏を聞かせてくれた。
アンコールはエルヴィン・シュルホフ:ヴァイオリンのためのソナタより第2楽章 アンダンテ・カンタービレ(ヴァイオリン・アンコール)という、これまた初めて聴く楽曲。ブリテンと同じ時代の作曲家の曲だよ、とホープ自身が説明してから演奏してくれた。作曲から約70年が経過し、もはや現代音楽のカテゴリーから外れて他の名前がつけられているのだろうが、ブリテン同様戦争の傷跡・悲惨さに対するアンチ・メッセージが込められているように感じる楽曲であった。
ナショナリズムの台頭する今の世の中に彼らの思いを伝えていこうということでプログラムしたのであれば、うれしい。

ショスタコ5番と言えば、家で聴くのは第4楽章だけ。というお宅も多いのじゃないか? なげーよ第1楽章、とか頭の中で悪態をつくのかと思いきや、先に述べた通り、対向配置のオケのセクション毎のキャッチボールに興味が行ったこともあり、面白く聞かせてもらった。
特に第3楽章は美しいなあ。途中で弦楽器のそれぞれのパートが二つに分かれて別の旋律を奏でるところがあることを、僕はこの日まで知らなかった(正しくはVnが3パート、ヴィオラ・チェロが各2部、コントラバスは1部の計8部構成だそうだ)が、各パートの強弱だけで表現できない繊細な何かを表現したかったんだろうか。あるいはソ連の実力者の子弟がオケに入っていて、なるべく多くの奏者を目立たす必要があったのか?
すみませーん、無知が勝手なこと言ってまーす。笑
そんなこと考えているうちに怒涛の第4楽章突入。張り切る大太鼓、シンバルよ盛大に打ち鳴らせ、Now's the time! お、お、床を伝って来ました低周波の波が!サントリーホールでもこれありなんだ、とうれしくなる。

あーあ、お腹いっぱい。どこかの大統領がきて警察官だらけの赤坂の街を歩いて帰路に着く。心地よい疲労感とともに。


# by windypapa | 2019-05-26 15:49 | music | Comments(0)

ラフロイグ・フォーオーク

仕事上のプロジェクトが無事終了し、火曜日は東麻布でその打上げ。
僕にはそぐわないオサレなフレンチレストランの1Fスペース貸し切りで、欧州のベンダーからの出張者4名を含む15名ほどが集まった。
そのとき、フランクフルトからの出張者が持参したのがこのスコッチウィスキー。

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UK通の同僚によると、「スコットランドの海辺で醸造された酒で、独特のスモーキーな香りがあり、日本人には癖が強く感じられる味だけど、現地では人気が高い」というお話。

百聞は一見に如かず。シャンパンで乾杯の後しばらくしてから早速開けてロックグラスに注いで見る。

思ったほど香りは強くない。持ち込んだセルビア人が、早く試してみろといたずらっぽく微笑む。
一口含むと、口の中に独特の香りが広がる。UK通が言う「薬臭さ」はないが、バーボン風味を含む複雑な味が舌を楽しませ、想像力を掻き立てる。
うむ、なかなか深い味わいだな。もう一杯。
と、ロックグラスをカウンターに置き、ちびりちびりと立ち飲みでいただきながら談笑する。
うーん、なんか東麻布っぽいぞ(笑)
3杯目のロックを行こうと思ったら、あれあれもう残り少ないじゃあないか。まーったく。

帰宅後ネットで調べると、4つの異なる樽(エクストラ・バーボン・バレル、クォーター・カスク、ヴァージン・アメリカン・オーク・バレル、ヨーロピアン・オーク・ホグスヘッド)を順番に移し替えて熟成させたとあるので、複雑な香りはここに起因しているのだろうね。

晩酌用にはちょっと高価なので、特別の日に用意したい一本。

ところで少し前に機内鑑賞して紹介した韓国映画が、遅ればせながら日本でも明日から上映されるそうだ。映画「神と共に」http://kamitotomoni.com/

お隣さんとはいろいろあるけど、この映画は文句なく面白いですよ。こむつかしい映画ではないので心配ありません。(笑)

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6月28日からは右側の続編(本国ではさらに3作目も公開されているらしい)も公開予定ということで、楽しみだ。

久しぶりに映画館に足を運ぼうか。


# by windypapa | 2019-05-23 09:43 | 日々是好日 | Comments(0)

サーフボードのコニシキ連隊

各地のローズガーデンの薔薇が美しい季節を迎えているが、最近は美しい薔薇を庭に咲かせるお宅も増えている。
僕が住む街でも、犬の散歩がてら眺めると、様々な色合い・大きさの薔薇にそこかしこで出会い、目を楽しませてもらえる。
はかない梅や桜の花も好ましいが、一輪一輪独特の雰囲気を持ち、確固たる存在感を放つ薔薇の花もまた美しい。
我が家の小さな庭でもいくつか薔薇の苗木があるが、こちらの努力不足か、思うようには咲いてくれない。(・_・;)
そのなかで一番古参の、我々が入居する前から棘だらけの太い茎をゲートアーチにがっちり絡めつける薔薇の蕾がようやく綻んだ。
薄いピンクの花弁は、いまどきの鮮やかな薔薇を見慣れた目には淡泊でもあるが、我が庭に咲けばそれはもう格別なのである。


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なにか庭の空気までも美味しく感じさせる、不思議な力を持つ薔薇だ。

そんな初夏の陽気に恵まれた土曜日、新宿から西に向かう私鉄に乗っていわゆるオフ会に出掛けた。
といってもリアルな趣味の会合からのスピンアウトゆえ、本来の意味でのオフ会ではないが、まあそれはそれで。
この日お邪魔したのは、メゾネットタイプの瀟洒なマンション。
各戸に重厚な木製玄関ドアが奢られ、内部の建具も無垢の白木造りとハイセンスなお宅にお住いのTさんはそのリヴィングオーディオも洗練されていた。
といってもいわゆるハイエンドという言葉で単純にくくり切れない、オーナーのこだわりが籠ったシステムである。

SPとアナログシステムはヴィンテージのJBL 3wayとEMT930をチョイスしながらも、デジタル音源と現行サブ使いのプリはハイエンドのLINN、主として駆動するアンプはヴィンテージの国内ガレージメーカー製。
それぞれが自己主張を持つこれらの機器を束ねて、調教し、見事に自分の音を組み上げておられるのがT氏だ。
ちょっと偉そうにコメントを残すどころではない。感心したまま気持ちよく目を瞠り音楽に聴き入った。
自分の求める音の方向性を持つ人は強いなあ。

試聴会後のデブリーフィングはTさんご夫婦の心尽くしの酒肴を囲む晩餐となったが、そのとき会話に紛れ込んだ情報が僕の酔耳を鋭くとらえた。(笑)
T氏の納戸兼書斎に、湯島の師匠が調教したQUAD 405Ⅱが眠っているという。
10年前、アイソバリックを始め「鳴りにくい」SPを次々に力でねじ伏せていた姿が記憶の奥から蘇る。
最近我が家の40㎏を超す時代錯誤の巨漢力士Mark Levinson ML3を持て余し気味の我が身、一度「コンパクト」なQUADを試してみたい。
と思うが早いか主人に貸与をねだり、トートバッグに入れて我家まで持ち帰った。
酔っ払っていても自分の欲望に忠実な男よのう。

ところで知ってる人は知っているが、QUAD 405Ⅱは確かにコンパクトなつくりだが、中身はぎっしり詰まって見た目よりずっと重い。
9㎏を超える金属の塊(しかも精密機械)を、酒席の帰りに持ち帰るのは愚かである。(^^ゞ
最寄りの駅からはタクシーを奮発して帰宅した。

翌日の午後、いよいよQUAD405Ⅱをシステムに接続する。
Mark Levinson ML3の横に置くと、ダンプカーの横の軽自動車の如し。

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やっぱり役者が違うかなあ?
まあまあ、先入観にとらわれず、TAD TL1601aウーファーに繋いで音を出してみよう。
SWを入れるときのショック音が神経に悪いが、思ったほどではない。


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まずはゲヴァントハウス・クァルテットによるベートーヴェンの弦楽四重奏第13番から。
一聴して低域が分厚く感じる。長い休眠から覚めたばかりにしては、朗々たる歌いっぷりじゃあないか。
そのまましばらく30~40分ウォームアップで再生を続けると、分厚いだけでなく豊かな表情が音に乗って来始める。
それではと、我が家のリファレンスの「難曲」のコーネリアス"Sensious"をトレーに載せる。
Play Loudの「ローカルルール」に従いヴォリュームを上げて再生すると、リスニングルームの床に堅牢な基礎杭が打たれたように分厚いローレベルが立ち上がり、床を高速で低周波が押し寄せる。
ギターの弦を弾く音は、弦の振動がそのままリスニングルームの空気を揺るがし、余韻が空中に揺らぎながら消える。
ギターの調弦を緩めながら弾く音が空気中に拡散していくラストでは、弦を激しく弾く打音とその音程の揺らいでいく様が鮮やかに眼前に広がり、はっとする。
続けてジェニファー・ウォーンズ"The Hunter"から"Lights of Lousianne" "Way Down Deep" "The Hunter" "I Can't Hide"を続けて再生。
どくどくと源泉が溢れるように、波のように低周波が押し寄せる。
サーフボードに乗ったコニシキの一師団が、ノースショアの波に乗って押し寄せてくる様を想像してほしい。(笑)
低域ばかり耳が行きがちだが、ちょっと待てよ、ウォーンズの声も刺激的な要素が無く聴きやすくなっていないか?

などと思いつつサラ・ブライトマン”Harem"から表題曲と"What A Wonderful World"を聴くと、表題曲の「禍々しい」オープニングに始まり、その「詰め込めるだけ詰め込んだ」音の万華鏡の中にも、ブライトマンのヴォーカルがくっきりと浮き上がる。
しかも彼女の高域も背後のヴァイオリンの高域も、軋みの要素が減って大音量でも聴き疲れがない。
かといってファットになったり、エッジが緩んだりすることなく、耳にきつい刺激的な成分だけ注意深く摘み取られているかのようだ。

カラヤン指揮ミラノ・スカラ座管弦楽団によるマスカーニの「カバレリア・ルスティカーナ」から「天の女王様、お喜びください」「讃えて歌おう」「間奏曲」を続けて聴く。
今まではある程度の音量を超えると高域が飽和して歪成分が出てくる傾向があったが、その中高域のいままでキンキンと響いていた成分が消えて、あるいはずっと抑えられて、落ち着いて聴こえるのだ。
800Hz以下を受け持つパワーアンプを交換して中高域の音調の変化を言うのも妙だが、ツイーターが低域に影響を及ぼすのと同様、こういうことが起こり得るのだ。たぶん。

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このコンパクトで古臭い筐体のどこにこんな馬力とアナログらしい音が潜んでいるのか?
わからないがこの音色は歓迎するぞ。
気になるのは巷間伝えられるノイズだが、この個体については無音時は気にならない。トランスの唸りも聞こえない。
強いて言えばSW ON時のショック音だけが気になるが、まあ目を瞑ろう。(オフ時はショック音がない。)

よろしい、我がファミリーに迎えよう。
・・・って勝手に決めるない!

そうそう、持ち主に了解を取らなくちゃあ。
さっそくT氏にメールを入れて譲渡をお願いしよう。うふふ。



# by windypapa | 2019-05-21 09:01 | オーディオ | Comments(0)

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