ウィーンフィル ふたたび

さて、ウィーン滞在4日目の今日はミッション ②ウィーンフィル定期公演鑑賞 ③クリムト絵画鑑賞 を完遂する日。

午前11時からの第6回ウィーンフィル定期公演のプログラムは、Dvorak チェロ協奏曲ロ短調 作品104、Beethoven Symphony No.6で、指揮はバーミンガム市響、ボストン響の音楽監督を務めるAndris Nelsonsがとる。

シーズンで10回しかない定期演奏会、親しみやすいプログラム、チェロ独奏奏者はウィーンフィルメンバー、売り出し中の指揮者、という条件も揃い、ネット上ではなかなか余剰チケットが出てこない。

思いつきで旅行を計画するこちらが悪いのだが、いつも行き当たりばったりの癖は抜けない。それにしてもウィーンに来てウィーンフィルの、ムジークフェラインホールの音を聴けないのは悲しい。

ラストミニッツのチケット獲得に向け、まずウィーンフィルのオフィスに出向くが、同じ目的の旅行者が何人も押し掛けて、カウンターの女性も辟易しながら「ALL Sold Out」と言っている。

形勢不利である。ドヴォルジャークを家人が、田園を僕が聴くという途中交代の奇策を考えつつ、ムジークフェラインホールへ向かうと、こちらもそろそろ人が集まり始めている。

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ホールの前のプレートの1枚

誰も「チケット売ります」などのプラカードを持っていないので、「売人」がわからないのだが、チケット片手にホール入り口近くに立つ紳士にアヴェックが声をかけ、商談らしき物が不成立に終わった気配を観て取り、すかさずアプローチ。

すると見事にビンゴで、「妻が病気で来れなくなった」ということで額面通りの価格で譲っていただいた。ちなみに先行のアヴェックは2枚求めていたので商談不成立だった模様。競争は激しく、僕が会話している間にも他の東洋人が割り込んでこようとしたほど。やれやれ。

土壇場で手にした幸運に感謝し、別々の席ながら家人と一緒に鑑賞することが出来た。

僕が紳士から入手した席は2階のボックス席で、こういう眺めになる。

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席はというと、こんな感じ(自撮り)

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BOX席はサブスクライバー席のようで、隣り合ったり近くの席同士が皆親しげに挨拶を交わしている。よそ者のこちとらはちと居心地の悪い時間帯だが、隣のベージュのジャケットの紳士が親切に話しかけてくれ、孤立を免れた。笑 オーストリアはまだ排他主義に陥っていないぞ。

しかし、サブスクライバーにとっては、コンサートは単に鑑賞するものではなく、交流する場でもあるのだと実感。

羨ましい文化である。

さて、4年前の訪問では、コンツェルトハウスで聴いたウィーンフィル、今回は念願の本拠地、ムジークフェラインホールでの演奏を聴けるということで、いやが応にも期待で胸が膨らむ。

ざわざわと話し声が続く中、オーボエのA音が控えめに響き、オケの音合わせが始まる。この時間のときめきが何とも言えない。

また、喧噪とオケの音合わせの音の響きで、このホールの暖かく、しかし曖昧ではない、好ましい響きも再確認することが出来る。

やがてしずしずと始まるチェロ協奏曲の冒頭、ヴァイオリンパートの頭出しを聴いて、ああ、思い描いた通りの美しい音だな、と感じる。多分に思い入れに流される傾向があるが、やはりこのホールの響きは別格だ、と思う。

第一楽章は結構激しい展開を見せるが、ストリングスパートは常に美しく、かつ豊かで力強い響きを奏でてチェロ独奏を支える。そこには耳障りな音は一音も無い。そのくせオケのff時のエネルギーは凄まじく、空気を揺らすほどだが、混濁感はまるでない。

独奏者のチェロもそれに負けずに伸びやかな音色で応える。レコードであれば独奏チェロの音がもっと大きく録音されるだろうが、この大きなホールの中では、デフォルメされず、しかし全体の中の大きな一人としてしっかりと音が刻まれる、という感じである。

聞き慣れた旋律の第3楽章、ライブで聴くとチェロの技巧性とともにトライアングルの活躍がよくわかる。ギャラはどうやって配分するのだろう、などと下世話なことが頭に浮かぶ。

チェロの音色というと、もう一段低い重厚感のあるものを想像しがちだが、このホールのこの席で聴くと、「ヴァイオリンセロ」の名の通り、兄弟楽器のそれに近い、朗々と軽やかな音色で聞こえてくる。

チェロの音に限らず、この席から聴く音響は、オケの直接音というよりは、間接音を中心にした「ムジークフェラインホールの音」に「加工」されたものである、という考えが浮かぶ。

素晴らしいフィナーレを迎えると、チェロ奏者Tamas Vargaに大きな拍手が沸き起こる。隣の紳士がこちらに小声で「バッハをやるぞ」と耳打ちすると、しばらくのアンコール拍手の後、朗々と、しかし静やかに、無伴奏を弾きだした。隣の紳士に頷くと、「言った通りだろ」と言わんばかりに頷き返す。はは、さすがウィーンっ子。よくご存知で。

休憩時間は狭い通路と談話室が聴衆で一杯になる。多くの聴衆にとっての大切な社交の時間。

休憩時間を終えて席に戻ると、この日のメインとも言える、楽聖の交響曲第6番が始まった。

客席から見える範囲で確認すると、オケの編成は左翼に第1Vn 15名、チェロ10名、その後方にティンパニ、中央最後列にコントラバス8名、その前3列に管楽器が6, 4, 5名の計15名、右翼はよく見えないが、ヴィオラ・第2Vnが左翼に匹敵する人数が配されていたはず。

シンフォニーが始まって気づくのは、オケ全体に活気が出てきたこと。弦楽器のボウイングも幅が大きく、繊細さより大胆さが勝るようになったように感じる。

やはり「ご当地ソング」として楽器が勝手に歌うのだろうか? 

アンサンブルの美しさは必要条件としてクリアした上で、各楽器、あるいはパートが名人芸を繰り出す、なんだかジャズセッションのような愉しささえ感じさせる演奏だ。

2日前に訪ねたハイリゲンシュタットに残る自然と、「田園」のモチーフとなった小川沿いの散策路が、ありありと天然色で頭の中に再現される。そういえば、ひばりだろうか、よく通る鳥の声も聞こえていたな。かっこうは聞こえなかった。などと独り言つ。

何とも愉しい、スイングするような?演奏が終わると、一拍おいて大歓声がホールを包む。

隣の紳士と挨拶を交わし、クロークで家人と落ち合い、なんだかとても晴れやかな気持ちになってホールを出ると、そとはまだ小雨が降っていた。

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by windypapa | 2017-03-19 12:40 | 日々是好日 | Comments(0)

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